第四十四話 恐怖の再会

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「ギース!」
指さしたその先に、最も恐れるラマ観光の添乗員ギースらしき獣の姿が見えたので、ケンシロウはバットで頭を殴られたような衝撃を受けました。

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しかし、家の陰から顔を突き出していたギースもケンシロウと目が合うと動揺したらしく、大慌てで顔を引っ込めたのです。

あまりに一瞬のことでしたので、ケンシロウはあれが本当にギースだったのかどうか確信がもてませんでした。
しかし、ケンシロウにあの不祥事を口外されるのを恐れているギースが、様子をうかがうために尾行を行うのは充分あり得ることです。
そう考えると、外敵がいる野生に放り出されたヒナのように、ケンシロウは心細くなりました。

「どうしたの?」
突然バッテリーが切れたように立ち止まったケンシロウに、マリーが心配そうに声をかけます。

「いや、別に、何でもないです」
ギースのことを話すわけにもいかないので、ケンシロウはとぼけてみせました。

「何でもないって、すごい汗よ」
マリーは不審げに、ケンシロウの顔を見つめます。

ケンシロウは動揺を消し去るように、慌てて手の甲で汗をぬぐい取ると、「いや、この陽気でニット帽とネックウォーマーしているもんだから、暑くて」と誤魔化して、手うちわで顔をあおぎました。

「そうなの、でも変装しているんだから、それとるわけにもいかないしね」

「大丈夫です。我慢しますから」
ケンシロウは、まだどこかでギースが監視しているのではないかとビクビクしながらも、空元気をだして歩き出すと、その足をギースが顔をだした方角とは真逆の方向にむけました。

「ち、ちょっと、そっちじゃないわよ!」マリーは慌ててケンシロウの手をひっぱります。「道も知らないくせに、勝手にどんどん行っちゃダメ」

「あっ、すみません」ケンシロウは冷や汗を垂らしながら謝ると、「でもなんか、そっち、方角が良さそうじゃないですよ」と下手な言い訳を述べ、マリーを誘導しようとしました。

「方角って、やだアナタ、占いでもやっているの?」

「やっていません! やっていません!」
ケンシロウは、冷や汗が飛び散るくらい激しく首を振りました。
ケンシロウは占いに支配されるのが怖くて、雑誌の占いコーナーを飛ばして読むほどの小心者です。占いなんて、死んでもやる勇気はありません。

「だったら、このまま、まっすぐ行く!」
小動物のようにおびえているケンシロウの肩を、マリーは力強くたたくと、先頭に立ってズンズン歩き始めました。

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第四十五話 5分の観光

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ケンシロウの不安を知らずに、ギースが現れた方向にズンズン進んでいくマリー。一方、その後を重い足取りでついていくケンシロウ。どんどんマリーとの間隔が離れていきます。

「ちょっとどうしたのよ。若者らしく、もっと元気よく歩きなさい!」
後から響いてくる足音が小さくなっていくのに気がついたのか、マリーは後ろを振り返ると、ケンシロウに喝を入れます。

「ちょっと、疲れちゃって。一休みしてから行きません?」
ギースとの接触をさけるために、ケンシロウは少しでも時間稼ぎをしようと、大げさに肩で息をしてみせました。

「一休みって、まだいくらも歩いていないじゃない」マリーは歩いてきた遠方に目をやります。家を出てからまだ一キロも歩いていないので、真っ直ぐにのびた道の先に、そよ風の家がまだ確認できます。「ただでさえ、長い道草をしちゃっているんだから、急がないと。畑ももうじきだし、さぁ頑張って歩きましょう」

「はぁ…」
息切れとも同意ともわからないような、元気のない返事をするケンシロウ。それでもぐずぐずして、時間稼ぎの悪あがきをしています。

「仕方ないわね」マリーは腕組みして、ため息をつきます。「じゃ、5分だけ休みましょう」

よっしゃー! 5分もあれば、充分時間稼ぎができる。ケンシロウは命拾いした喜びから、「ありがとうございます!」と元気の良い声を張りあげて、深々と腰を折りました。

「なんだ、元気あるじゃない。本当にバテているの?」
マリーは疑わしそうな視線をケンシロウに向けます。

「あっ、もうだめ」ケンシロウは演技の破綻を挽回するように、今度はよろめいてみせ、「急に元気をだしたもんだから、なんだか、猛烈なめまいが…」と言って、道路の脇にヘナヘナと座り込みました。

「なんだか、怪しいわね」と疑いながらも、マリーはその隣に腰をおろすと、「でも、5分よ。いいわね、5分だからね」と念を押しました。

その間、やることもないのでケンシロウは目の前に広がる街並みに目をやりました。
その景観は、自分の暮らしていた日本の雑然としたものとは大いに違い、きちんとした都市計画に基づき形成された統一感のとれた美しいものでした。

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外国旅行を一度もしたことのないケンシロウは、古い街並みを大切に保存するヨーロッパもこんな感じで美しい景色を観賞できるのだろうかと思いながら、しばしすべてを忘れて、うっとりとその街並みを眺めたのでした。

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★あらすじ★


第四十六話 ギースの脅し

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「さぁ、それじゃ出発するわよ」
あっという間に5分が経ち、マリーは地べたに座ってついた砂埃をパンパンと払いながら立ち上がりました。

「えっ、もう…」ケンシロウは腕時計をはめてもいない右手首に視線を落とすと、マリーを見あげて言いました。「まだ1分くらいあるんじゃないですか?」

「往生際が悪いわね」マリーはケンシロウのその右手首をつかみ、ものすごい力で引っ張りあげました。「さぁ、立った、立った」

「チッ、仕方ないなぁ」
舌打ちをして立ち上がるケンシロウ。

「仕方がない?」マリーはケンシロウを睨みつけ、ボキボキと指を鳴らします。「それはこっちの台詞よ」

老人とはいえ、怪力をもった獣です。本気で殴られたら、複雑骨折の重傷を負いかねません。
もうこれ以上、怒らせたらまずいと、ケンシロウは不自然なほど明るい声で言いました。「アレ? 何だか、急速に体調が回復してきたぞ。今日も元気だ、ご飯がうまい。さぁ、早くそのご飯の素になるお野菜を採りに行きましょう! ねぇ、マダム」

「何がマダムよ。調子がいいわね」マリーは、仕方がないわねといった感じで鼻で笑うと、行く手を指さし号令をかけました。「じゃ、レッツゴー!」

それを受け、ケンシロウも「オー!」と元気な声をあげると、逆方向につま先を向けます。

「ちょっと、そっちじゃない!」
マリーは先ほどよりも強い力で、ケンシロウの腕を引っ張ります。

「どうしても、そっち行きます?」

「もちろん。こっちが畑に行く近道だもの。それにアナタ、疲れているんでしょ。遠回りすれば余計に疲れるだけじゃない」
マリーはケンシロウの手を引っ張ったまま、機関車のごとく歩き始めます。

どうやっても連結を外せず、引きずられていくケンシロウ。「わかりました。行きます。行きますよ。行けばいいんでしょ」渋々決意を固めると、錆びた車輪が渋く動き出すような、重い一歩を踏み出しました。

「そう、しっかり自分の足で歩くの。わかった?」とマリー。

「はい…」
ギースとの衝撃の再会から10分近く経ったので、もう大丈夫だと思いつつも、一歩一歩、ギースが顔をだした角に近づくにつれ、緊張で鼓動が早まるケンシロウ。

そしてついに、マリーの一歩が、恐怖のその角に…。

と、その時です。
どこからか、一枚の紙がヒラヒラと舞ってきて、マリーの顔を覆いました。

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「ちょっと、何よ、コレ?」マリーは驚いて紙をとると、それを読み上げます。「ナニナニ、約束を守らないと、殺すぞ」

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第四十七話 前線は御免

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「ち、ちょっとナニコレ、気味悪い!」
マリーは、その恐ろしい脅迫文句が書かれた紙を放り投げました。
その紙はヒラヒラと舞い、今度はケンシロウの顔に覆いかぶさります。

「ヒィーッ!!」卒倒しそうな勢いで、その紙を払いのけるケンシロウ。「だから言ったでしょ、そっちに行かないほうがいいって!」

「アラ本当! アナタの予言、当たったわね」マリーは驚きを隠せず、目を丸くしてケンシロウを見つめます。「でも、この脅迫文、誰に向けて書かれたものかしら?」

「そ、それは…」それが自分宛に送られたギースからの脅迫文に間違いないと確信するケンシロウ。しかし、それを正直に打ち明けたら、それこそ抹殺されてしまいます。ケンシロウは恐怖心に負け、惚けるしかありませんでした。「その脅迫文を、最初に顔面で受けた人ではないかと…」

「それって、ワタシ?」マリーは自分を指さし絶叫しました。「ナンデ、ナンデ、ワタシ、人に恨まれるような覚えないわ。それに、約束って何、何なのよ〜!」

「さぁ? 何なんでしょうね」
申し訳ないと心のなかで詫びつつも、惚け続けるしかないケンシロウ。しかし、マリーは永遠に解けない謎に苦しみながら、死ぬまで怯え続けるかもしれません。罪深い嘘です。

「やっぱり…」マリーは、すがるような目でケンシロウを見ます。「アナタにボディガードをお願いしようかしら、イヤ、お願いします。だって、アナタ、一寸先が見えるんですもの。ワタシより先に危険を察知できるはずよ。お願い、助けて!」

「はぁ…」ボディガードしてもらいたいのはコッチのほうだと泣きたくなるケンシロウ。しかし、嘘をついた代償は引き受けなければなりません。「わかりました。じゃ、ワタシが後方支援をしますんで、先に行ってください」

「ち、ちょっと、ナニ言っているのよ。前線のほうが危険じゃない。アナタが先に行ってよ!」
マリーは怪力でケンシロウの背中を押し出します。

「エーッ、やですよ」
しかしケンシロウも火事場のクソ力を出し、マリーを先に行かそうと身を翻します。

「何でよ」
マリーもケンシロウの技を盗んで、身を翻します。

「だ、だって…」さらに返し技をしながら、必死で探した言い訳を口走るケンシロウ。「だって、ボクが先に殺されたら、誰がアナタを守るというのですか」

「それは、そうね…」とマリー。しばらく思案し、道端に転がっていた棒を拾うと、「じゃ、並んで歩きましょ。で、何か危険を感じたら、これでワタシを守って」と言って、ケンシロウにその棒を手渡しました。

「この棒で、立ち向かえというのですか…」
物差しのように、薄っぺらで頼りない棒を眺めながらケンシロウは唸ります。

「素手よりはマシでしょ」と無茶を言うマリー。そして、その棒よりよっぽど攻撃力がありそうな怪力でケンシロウをお尻をピシリと叩きます。「さぁ、男だったら、覚悟を決めて行く!」

「痛〜ぁ!!」
あまりの激痛に飛びあがるケンシロウ。

「たったと行かないと、もっと痛いのが飛ぶわよ」
開いた右掌に、ハァ〜ッと荒い息を吹きかけるマリー。

「わ、わかりました」
ケンシロウは逃げるように身を後退させながらも、へっぴり腰で棒を振りあげてみせました。

と、その時です。
目の前に落下してきた植木鉢が、激しい音をたてて地面に叩きつけられたのは…。

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マウントエレファント

Author:マウントエレファント
アルパカとバラとスプリング、つまり春(おまえはルー大柴か)を愛するナイスミドル?なサラリーマンです。でも同僚には、そんな趣味、ばらしません。キモイっていわれますから。残念!(古っ!)

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