コーヒー戦争に勝つ秘策

「何かいい打開策はないかね」
戦略会議が始まるやいなや、社長丸山伝助は苦渋に満ちた表情で、集まった部長以上の管理職に問うた。

部長島駄作が勤めているのは、缶コーヒーを製造する中小企業だ。

丸山社長を悩ませているのは、日々競争が熾烈になるコーヒー業界の現状である。
ただでさえ、大手のコーヒーメーカーとの競争にあえいでいるのに、最近はコンビニエンスストアで淹れたてのおいしいコーヒーが飲めるようになり、部長島駄作の勤めるグッドコーヒーは、ますます苦境に陥っているのだ。

「やはり、どのコーヒーメーカーも開発していない、斬新な発想のコーヒーをだすのが得策だと思います」
最初に口火を切ったのは、出世欲の塊のような男、田貫一夫部長であった。

しかし丸山社長は、「う〜む」と腕を組んで唸る。「それはさんざんやったじゃないか。そのせいでアイテムが増えすぎて、むしろ整理したいくらいだよ。そんなことに浪費する余裕は、もう我が社にはない」

「その通りです」部長島駄作はスパッと日本刀で、ライバルの田貫部長を斬るように言った。「そんな使い古した手では、会社を救うことはできません」

「すると、名案があるのかね」丸山社長は、灯台が漁船に灯りを向けるように、島駄作に輝く瞳を向ける。「島くん」

「むろんです」島駄作は自信に満ちた声で答える。「いま我が社に大切なのは、イメージ戦略です」

「ほう、イメージ戦略か。それは、これまで使ったことのない手だ」

「はい」と頷く島駄作。
そして席を立つと、窓際に寄り、ブラインドをあげる。
陰鬱な空気が充満していた会議室が、西日で眩しいほど明るくなる。
背中に西日を浴びた島駄作は、まるでオーラを放っているように皆の目に映る。

「で、そのイメージ戦略とは、具体的にどのようなものかね?」
丸山社長はまぶしそうに目を細めて島駄作に訊く。

「町の美化に力を入れているという企業イメージを消費者に植えつける戦略です」と島駄作は答える。

「ほう、町の美化か」

「そうです」島駄作は会議室に展示されてある缶コーヒーを手にとると、それをテーブルの上に転がす。「皆さん、町を汚している元凶は何だと思います?」島駄作は、会議室に揃った面子にひと通り視線を流した後、テーブルの上に倒れた缶コーヒーを指さす。「落書きとポイ捨てされた空き缶ではないでしょうか」

「確かに」と丸山社長は深く頷く。「それは、私も常々心苦しく思ってきたことだ」

イエスマン揃いの部下たちは、それに連動するように相槌を打つ。

すると田貫部長が、手柄を横取りするように慌てて口を挟んだ。
「私も以前から、企業責任として空き缶のポイ捨てに歯止めをかける方法はないかと思っていました」

「で、それを食い止める手立てはあるのかね?」
丸山社長は、田貫部長の発言をスルーして島駄作に訊く。

「あります」島駄作は不敵な笑みを浮かべて、田貫部長を一瞥してから答える。「宝くじです」

「ほう、宝くじか」

「はい。缶コーヒーに宝くじの番号をプリントするのです。そうすれば、ポイ捨てはかなり減らせるはずです」

「なるほど」社長は頷きかけたが、すぐに表情を曇らせた。「しかしハズレだった場合、腹いせにどこかにポイ捨てされるのではないかね」

「その点についても名案があります」島駄作は、丸山社長の不安を打ち消すような明るい声で言う。「当選発表を、ゴミの収集場所に貼らせてもらうようにするのです。そうすれば、余程のへそ曲がりでない限り、他所でポイ捨てすることはないでしょう」

「そうか。そうすれば、うちの缶コーヒーを選ぶ消費者も増えるし、一石二鳥だ」
社長は手を叩いて絶賛する。

しかし、それを面白く思わない田貫部長は、「ですが、宝くじの販売は当せん金付証票法で禁じられているはずですし、だいいち賞金を払うとなると、莫大な費用がかかります」と難癖をつけた。

「うむ。そういう難点もあるか…」社長の表情は再び曇る。「どうかね、島くん」

「法律の問題は、その意義を政府に説得すれば、必ず納得してくれるはずですし、賞金の費用についても私に一任していただければ、何とか工面してみせます」

「何とか工面する?」

「はい。まずは軍資金をいただければ、それを倍にしてみせます」
島駄作は両手を大きく広げながら、明るい声を大きく張りあげる。

「どうやって、倍にするのかね?」

「先物取引です」と島駄作は答える。「先日、ある業者から家に電話がありまして、99.9%儲かるから、ぜひ投資してみないかという誘いがありました。それを利用すれば、半永久的に賞金にあてる費用を稼げるはずです」

島駄作の名案を聞いて丸山社長は深い溜息をもらすと、他のメンバーに向かって言った。
「他に、いい打開策はないかね?」

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自分勝手な6S

今日は、月一回行われる部長以上の6Sパトロールの日だ。
6Sパトロールとは、部長以上の管理職が、整理・整頓・清掃・清潔・躾・安全がなされているか、各現場を見て回るというものだ。

しかし、本部長を筆頭に、10名もの部長らが訪れ、厳しい目を光らせてあら探しをするので、立場の弱い現場の作業員にとっては、恐怖以外の何物でもない。

それは、現場をまとめる課長にとっても同じであった。
牧冬彦課長は、指摘ができるだけ少なくて済むよう、事前に現場を回り改善を促すと、6Sパトロールのご一行様の到来を待った。

「それにしても、迷惑な話だ。この糞忙しいのに、6Sパトロールだなんて。仕事の邪魔以外の何物でもない」
落ち着かない表情を浮かべる牧課長の隣に並んで、武藤隼人が腹ただしげに言った。

「ええ、まったく…」と、牧課長は本音を言いかけたが、すぐに訂正して言った。「武藤さん。本部長たちが来たら、余計なことを言わないでくださいよ。頼みます」

「なんだ、余計なことって」鼻っ柱の強い武藤隼人は、早くも食ってかかる。「テメエがそんな感じだから、なめられるんだよ。課長ってのは、部下を守るもんだ。ちっとは現場を事情を理解した反論をしてみせろ」

「気持ちはわかりますが、でも…」と牧課長は、武藤隼人の迫力に押されて弱々しく答える。「そんなことをしても、自分の立場を悪くするだけで、さらに働きにくくなるだけですから、それは損かと…」

「ふん。腰抜けめ」と武藤隼人は吐き捨てるように言う。「だったら、オレがビシッと言ってやる」

武藤隼人がこれほど強気なのは、勝ち気な性格のせいもあるが、本部長よりも先輩であることが大きな要因だ。
また、ベテラン工として、優れた腕ももっている。
口先だけの課長よりも、現場では彼がいないと、仕事がうまく回らないのだ。

それだけに、上辺だけを見て、いろいろ難癖をつける6Sパトロールが我慢できないのであった。
だが、そういう性格が仇となり、出世ができないのも彼の欠点であった。

そうこうしているうちに、パトロール隊が現場に姿をみせた。

入ってくるなり、本部長が言った。
「また、こういうところに、資材をおいている。全然改善されてないじゃないか」

「あっ、本当ですね」と言ったのは、武藤隼人がごますり野郎として最も軽蔑している部長・島駄作であった。「一体どういうことなんだ、牧くん」

「はぁ…。誠に申し訳ありません」
気の弱い牧課長は、平謝りするばかりであった。

そのだらしなさを見て、武藤隼人はムカムカしてきた。
そしてついに、一言いってやらねば気がすまなくなった。

「ちょっと、いいかね」
武藤隼人は左右に傾けた太い首をポキポキ鳴らしながら、島駄作のもとにズカズカ歩み寄っていった。

「な、なんだね…」
60近い年齢の割に、筋骨隆々の武藤隼人の威圧感に圧倒され、島駄作は一歩後退する。
また、彼が自分を嫌っていることも、よく知っていた。

「資材をここに置いてはいけない理由はなんだ?」と、武藤隼人は島駄作に訊いた。
それは、この男が6Sの意味をよく理解せず、ただ上役に同調して、説教をたれているのではないかと睨んだからだ。

その読みは当たっていたようで、島駄作の表情に困惑の色が鮮明に現れる。
しかし答えないわけにはいかないので、本部長の目を気にしながら、島駄作はたどたどしく説明を始める。
「そ、それは、ここにこんなものを置いていては、作業の邪魔になるし、コ、コストダウンにもならんからだ」

「ほう、作業の邪魔にね」武藤隼人は小馬鹿にしたように鼻で笑う。「アンタは、移動の無駄というものを理解していないようだ」

「移動の無駄?」

「そう、移動の無駄」武藤隼人は、ムッとした表情を浮かべる島駄作を睨み返して言う。「あんたらは、この資材を作業場の外に置き、それを使うたびにいちいちリフトでここに運ぶように言うが、そんなことをことをしていたら、時間の無駄が発生するし、リフトの燃料だって無駄に浪費することになる。こういう馬鹿らしいことが、作業の邪魔になるってか。コストダウンにならないってか。アンタの家では、料理をするときに、包丁や食材を遠いところに置いて、使うたびにいちいち戻しては持ってくるようなことをしているのか?」

「そ、それは…」
この抗弁に勝てる理屈が見つからず、島駄作は二の句が継げない。

「へん」武藤隼人は、勝ち誇ったように鼻を鳴らす。「俺らの仕事は、本を決まった場所に整理整頓する図書館の司書じゃないっての」

「牧くん!」勝ち目を失った島駄作の怒りは牧課長にぶつけられた。「部下に、一体どういう教育をしているんだ」

「は、はぁ…」牧課長は、青ざめた表情を武藤隼人に向ける。「武藤さん。理屈はわかりますが、会社の命令ですので、従って下さい」

「お前は、何のための課長だ」武藤隼人は、深い溜息をつく。「現場の事情をよく飲み込んで、それを上司に事細かく説明して、より働きやすい環境をつくるための調整役として、課長のポジションがあるんだろ。それを何でもかんでも上がそう言うから従えなんて馬鹿なことを言う。お前みたいのがいるから、第二次世界大戦で日本はああいうザマになったんだ」

「部下にこんなことを言わしといて、いいのかね!」
島駄作は武藤隼人を一瞥もせずに、牧課長を叱咤する。

「島部長さん。あのさあ」武藤隼人は邪魔だといわんばかりに、ペコペコ謝る牧課長を肩で押しのけて言う。「この間、街でアンタがホテルの植え込みに、タバコの箱をポイ捨てするのを見たんだけど、会社の外では、6Sはしなくていいっていう考えでいるの?」

「何、本当かね」と問いただしたのは、島駄作のライバルである田貫一夫部長であった。
その後ろで傍観していた本部長の顔も苦々しく歪む。

「き、貴様…」島駄作の唇が怒りでワナワナと震える。「自分の立場もわきまえず、そういう口の利き方をして、ただで済むと思っているのか!」

しかし、武藤隼人は一向に怯む気配はない。
「へん。こちとら、あと半年もすれば、定年なんだ。気に入らないのなら、どうとでもすればいいさ」と武藤隼人は吐き捨てるように言う。「そのかわり、一消費者として世間に言いふらしてやるよ。グッドコーヒーの内情は、バッドコーヒーだったて」

「お前ってやつは…」島駄作の声は、断末魔のように苦しげに響く。「恩を仇で返すのか!」

「恩だと…」武藤隼人は、せせら笑いながら言った。「テメエら、時給いくらだ。高給取りがそろって、こうして物見遊山していられるのも、現場の人間が汗水垂らして働いているお陰だと、逆に感謝しろ!」

そのような不毛な議論が、それから30分ほど続いた。
最終的には、本部長から「現場の事情もよく配慮して、6Sを進めていこう」との結論がでたので事が収まったが、昼食の時間はとうに過ぎてしまった。

腹の虫が収まらない島駄作は、肩を怒らせながら食堂に向かう。

そんな調子で島駄作が食堂に現れたのを見ると、「アラ、部長さん。いまお食事ですか?」と、食堂のオバちゃんは困惑の表情を浮かべて言う。「困ったわ。もう片付け終わっちゃって」

「ナニ!」島駄作の怒りは爆発した。「まだ1時半じゃないか。こんな時間で、もう片付け終わっただと。二時くらいまでは、いつでも対応できるように、用意をしておけ!」

理不尽な値切り交渉

部長島駄作は、ファッションにこだわる男だ。

その理由は、不純なものであった。
要するに彼は、女子社員にもてたいのである。

ところが、彼に対する女子社員の評価は芳しくない。
メタボぎみで短足な中年男が、いくら高価なスーツを着ても、まったく似合わないからだ。
おまけに、下心が見え見えなので、余計に毛嫌いされる。

そうとも知らず、自信家の島駄作はおしゃれに大枚をはたいている。
いまクロゼットに吊してあるブランドもののスーツは、20着ある。

しかし最近は、そういう余裕が失われつつある。
それはもちろん、消費税があがったからではない。

彼の双子の息子が、そろって私立大学に進学したからだ。
そうなると、高給取りの部長といえども、経済事情が厳しくなるというわけだ。

島駄作は、値の張るスーツの購入はできるだけ控えるようにして、ちょっとくたびれかけた革靴を買い換えに、某一流デパートに行った。

そこに、高級紅茶のような色合いの、光沢の美しい革靴があった。
それはフランス製で、値段は6万円もする。
しかし、彼はそれに一目惚れした。

だが、島駄作が持ち合わせている現金は、5万5千円しかない。
でも、今すぐ欲しい。何としてでも…。
衝動買いを抑えきれない性格の島駄作は、値切ることに決めた。

そこで彼は、こんな理屈をたてた。
コンビニのコーヒーでは、レギュラーとラージとでは値段が違うのだから、島駄作に合ったサイズの24センチの靴と、展示されている26センチの靴の値段が同じなのはおかしいという理屈だ。

しかし、その理屈を靴売り場の女店員に言うと、当然、あっさり却下された。

それでも島駄作は粘って、こう反論した。
「靴のサイズが違えば、使う皮の量も変わってくるのだから、その皮の分ぐらい値引きしてもいいじゃないか」

「そうおっしゃいましても…」若い女店員は困惑の表情を浮かべて、丁寧に頭をさげる。「その価格を設定しているのは、メーカー様でして、私どもではないので…」

「いや、大体おかしなことが多すぎるんだよ」と、冷静さを失った島駄作は暴言を吐く。「例えば、床屋だ。薄毛の人と、長髪の人の料金が同じなのは、おかしいじゃないか。タクシーの料金だって、人の二倍も体重のある人と、その半分のやせぎすな人の料金が同じなのは、絶対におかしい」

「それは、私どものデパートとは、まったく関係のない話かと…」
女店員は、鼻息を荒くする島駄作の扱いに困り果てたような表情をみせる。

しかし島駄作は「いや、同じだ」と言い張る。

というのも、島駄作の勤める会社は、「グッドコーヒー」というコーヒーメーカーで、そこでつくるコーヒーはサイズで料金が違っているからだ。
彼はその点について、常日頃から、サイズが違うのに値段が同じである衣料品に、強い不公平感を抱いていた。

頑として譲らないクレーム客の対応に困った女店員は、ついに根を上げて、「では、少々お待ち下さい。上の者を呼んで参りますので」と答えた。

それからしばらくすると、白髪の男性店員が現れ、申し訳なさそうに言った。
「いまこの者から話を聞きましたが、やはりそういうわけにはいきません」

「どうしても、ダメなのか」
島駄作は未練がましい表情を滲ませる。

「はい」と白髪の上司は答えたが、となりの婦人用の靴のコーナーに手を向けた。「ただし、これとまったく同じデザインの革靴が、あちらにあります。婦人用のお靴の値段は、男性用のに比べて、5千円ほどお安くなっております。幸い、お客様のお足のサイズは24センチですので、もしかしたらご希望に応えられるかもしれません。いかがなされます?」

ケチくさいくせにプライドの高い彼は、さすがにその提案には乗れなかった。

「いや、いい。別の店を当たる」と答えると、島駄作は短い足をドタドタと響かせ、足早にそこを去って行った。

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マウントエレファント

Author:マウントエレファント
アルパカとバラとスプリング、つまり春(おまえはルー大柴か)を愛するナイスミドル?なサラリーマンです。でも同僚には、そんな趣味、ばらしません。キモイっていわれますから。残念!(古っ!)

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