迷彩服の少年の夢

とある小学校の卒業文集が仕上がった。
卒業文集のテーマは、「将来の夢」だ。

6年1組の担任新米太郎は、卒業文集を教え子のひとりひとりに手渡しながら、それに愛情のこもった言葉を添える。
初めての受け持ったクラスなので、どの子にも我が子のような愛情を感じてしまうのだ。
まだ独身なので、余計にそういう気持ちを抱いてしまうのかもしれない。

しかし、埋没正一については、なぜか他の子にくらべて、あまり愛情を感じられなかった。
彼が新米太郎に反抗的な態度をとったとか、手に余る問題児であったというわけではない。

埋没正一の見た目はきわめて平凡。どこにでもいる印象の薄い顔立ちだ。
性格は、きわめておとなしい。
そのせいか、いるかいないか忘れてしまうようなタイプの児童である。

要するに、印象が薄いのだ。
だから、他の児童に比べて愛情が薄まってしまっているのかもしれない。

しかし新米太郎は、埋没正一の「将来の夢」を読んだとき、妙な引っかかりを覚えた。

埋没正一の将来の夢は、大勢が同じ仕事をしている工場のラインで働くことであった。

このような夢を書いた生徒は、誰もいない。全国的に見ても、珍しいだろう。
あまりに夢がないというか、それでいて具体的すぎるというか…。
まぁ、目立つことを嫌う埋没正一には、これ以上の適職はないのかもしれない。

新米太郎は、埋没正一に卒業文集を渡すとき、どのような言葉をかけていいのか迷った。
まさか、なんでこんな夢を抱いているのかとも聞けない。
それは、職業差別であり、彼を傷つけることになるかもしれないからだ。

しかし埋没正一とて、新米太郎にとっては、大切な教え子のひとりだ。
埋没正一の将来を心配する気持ちは抑えがたい。

新米太郎は質問の仕方をかえて、埋没正一がその夢を抱いた理由を聞き出そうとした。

そこで新米太郎が目をつけたのは、埋没正一のファッションだった。
埋没正一は、なぜかいつも迷彩色の服を好んで着ている。
平凡な埋没正一が、唯一他人と違っているのは、その点だ。

新米太郎は、埋没正一が迷彩色の服を好んで着続けている理由も知りたくて、こんな質問をした。
「君は工場で働きたいのか。先生は、君は自衛隊に入りたいのかと思っていたぞ」

「なんでですか?」
埋没正一は、蝋人形のように表情のない顔を横に傾ける。

「だって、いつも迷彩色の服を着ているから」

「ああ、これですか…」埋没正一は、迷彩色のトレーナーをつまんで答える。「もう卒業するので本当のことを言いますが、この服を着ている理由は、目立ちたくなかったからです。だって目立たなければ、授業で先生に当てられることもないでしょ」

確かに、新米太郎は、あまり埋没正一を当てた記憶がない。

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迷彩服少年の嘘

埋没正一には、クラスのみんなを騙していることがあった。

小学校を卒業するまで騙し続けようと思ったが、病的なほどに目立つことを嫌う彼でも、それができない衝動に駆られた。
その抑えがたい衝動は、まるで空気を入れ続けた風船が破裂する寸前まできているような状態だった。

なぜ、そのような状態にまで追い詰められたのか…。

それは、彼が迷彩服を着てまで、自分の存在を消してしまいたいと思いつめた原因が、その嘘に秘められているからである。

埋没正一は、担任教師の新米太郎に卒業文集を手渡された時、迷彩服を着続けている理由をカミングアウトしたついでに、クラスのみんなを騙し続けていることについても、カミングアウトしてしまおうと思った。

「実は、もうひとつ話しておきたいことがあるんです」と埋没正一は勇気をふりしぼって言った。

「な、なんだ?」
新米太郎は身構えた様子で尋ねる。
それは、迷彩服を着ている理由を明かされたときの衝撃を上回る爆弾発言を聞かされるのではないのかと恐れたからだ。

埋没正一は、怯えた表情でいる新米太郎を、意を決した面持ちで見つめて言う。
「本当はボクの名前、ショウイチと読むんじゃないんです」

「な、なんだって…」
開いた口が塞がらない新米太郎。
クラスメイトも余程驚いたようで、教室はざわめきで満ちる。

「じゃぁ、なんて読むんだ?」
生唾を飲み込んで、新米太郎は訊く。

「ヨケイと読むんです」

「ヨケイ?」
近頃の子供の名前は凝ったものが多く、このクラスを受け持った当初は、難しい漢字を使う生徒の名前を覚えるのに苦労した新米太郎であったが、まさか一番読みやすかった彼の名前が、蓋を開けたら一番読みにくかったとは思ってもみなかった。

眉をひそめて聞き返す新米太郎に、埋没正一は繰り返した。
「そうです。ヨケイと読むんです」

「君のご両親は、どうして君にそんな読み方の名前をつけたのだろう?」

「それは、ボクがいらない子だったからです」と、寂しそうに埋没正一は答えた。

「いらない子って…」あまりの爆弾発言に絶句する新米太郎。「どうして、そんな…」

「先生も御存知の通り、ボクには5人の兄弟がいます」と埋没正一は伏し目がちに答える。「ウチはあまり裕福ではないので、両親はそれ以上、子供をほしくなかったんです。それなのに、ボクが生まれてしまった…」

そう言って、埋没正一は項垂れた。
床に、埋没正一が流した涙の雫が落ちる。

それを見て、新米太郎は全て悟った。
正一という名には、六人目の子供という意味と、その六人目の子供はいらなかったという意味が込められていたのだと…。

「そうか、わかった」新米太郎は、埋没正一の肩を引き寄せ抱きしめると、一緒に泣いた。「いままで、よく頑張ったな」

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アルパカとバラとスプリング、つまり春(おまえはルー大柴か)を愛するナイスミドル?なサラリーマンです。でも同僚には、そんな趣味、ばらしません。キモイっていわれますから。残念!(古っ!)

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