第七十五話 記憶にない依頼

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リーフのボランティア介護で来たブラウンが帰った翌朝の朝食時、そよ風はケンシロウの今後のことについて家族会議を開くことにしました。

そよ風はテーブルにみんなが揃うと言いました。
「朝食を食べながらでいいから、ちょっと話を聞いてもらいたい」

「何かしら、そんな畏まった口調で。重要な話?」
ミントは、みんなのコップにミルクを注ぎながら訊きます。

「うん」そよ風は頷いて、ケンシロウのほうを見ます。「ケンシロウさんのことについて、ちょっと重要な話があるんだ」

「手短に済ませてね」アルトは、忙しそうにパンを頬張りながら言います。「ワタシ、音楽会にむけて朝練があるんだから」

「わかった、わかった」そよ風は口調を和らげて答えます。「食べながらでいいから聞いとくれ」

「で、なんじゃ、話って」リーフは、老人とは思えぬ食べっぷりを披露しながら言います。「ワシも、二度寝にむけて忙しんじゃ。手短に済ませとくれ」

「はい、はい。わかりました」そよ風は苦笑して答えます。「お父さんも御存知の通り、昨晩、ブラウンさんにケンシロウさんの着ぐるみをつくってもらうことになりました」

「着ぐるみ? こやつの?」リーフは首を捻り、ケンシロウを見ます。「そんなことあったかのう。オマエ夢でも見とったんじゃないのか?」

「エッ、覚えていないんですか? お父さん」
そよ風は、リーフのボケっぷりに呆れた表情を浮かべます。

「あったのよ。お爺さん」
マリーが、そよ風の弁護に入ります。

「本当か?」リーフは、それでも信じられないといった表情を崩しません。そして、その不信に満ちた面持ちをケンシロウに向けます。「おぬし、それは事実か?」

「ええ」ケンシロウは呆れて物が言えないといった感じで、ため息混じりに返答します。「危うく、アナタのヤンキー時代の着ぐるみの発注されそうになりました」

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第七十六話 招かざるベル

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「ナニ、ワシのヤンキー時代の着ぐるみじゃと」とリーフは言います。「それはいい! おぬしもそれを着れば、女子にモテモテになるぞ」

「なわけねーだろ!」
ケンシロウはツッコミを入れます。

「まぁまぁ、その件はおいといて」貴重な朝食の時間を、そんなくだらない漫才に割く時間はないとでもいうように、そよ風は仲裁に入ります。そして再び真顔で話し始めました。「昨日の家族会議でも話したように、アルパカ市民新聞の記者から、ケンシロウさんのことを特ダネにさせてもらいたいという依頼を受けて、どうしたらいいか対応に困っているんだけど…」

「それで新しい着ぐるみをブラウンさんに作ってもらって、窮地を乗り切ろうってこと?」
頭の回転が速いアルトが、先読みをして訊きます。

「うん、そういうことなんだ」と、そよ風。さすがは自慢の娘だと感心するような笑みを浮かべています。

「なるほどな」とリーフが、また口を挟みます。「それでワシのヤンキー時代の着ぐるみが役に立つというわけか。カミソリのリーフと恐れられたあの面構えで睨まれたら、どんな奴も震えあがってしまうからのう。そうすりゃビビって、特ダネなんてゴリ押しできなくなるわい」

第七十六話+のコピー_convert_20140710091032


「いや、そうじゃないんです」とそよ風。今度は、こんな父親の息子であることが悲しいとでも言いたげな萎れた表情を浮かべています。

「じゃ、なんなんじゃい!」
リーフは憤慨して問いただします。

「そ、それは、ブラウンさんにアルパカ星人そっくりの精度の高い着ぐるみを作っていただきまして、それをケンシロウさんに着てもらうことで、ケンシロウさんはもう地球に帰還したという話にしたいのです」

「それはいいアイデアね」
ミントは、夫に尊敬の眼差しを送ります。

「でも、着ぐるみの完成には、一ヶ月くらいかかるといっていたじゃない」昨夜の現場に居合わせたマリーは不安に満ちた表情を浮かべて、息子を見ます。「そこまで記者さんをだませるかしら」

「だから、着ぐるみが完成するまでは、ケンシロウさんは自室から外に出ないでいてもらいたいのです」と、そよ風は答えました。


これは窮屈な生活を強いられるぞ、とケンシロウが思っていたら、食堂に置かれた固定電話のベルが鳴りました。

固定電話のいちばん近くに座っていた、マリーが受話器をとります。

そして受け答えをすると、すぐに受話器を手で塞ぎ、青ざめた顔を家族に向けました。
「困ったわ…、プレスさんからよ」

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★あらすじ★

第七十七話 困った電話

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「プレスさんて、アルパカ市民新聞の記者さんよねぇ」ミントは動揺した顔を、夫のそよ風に向けます。「どうしましょう、アナタ」

「う、うん」そよ風も動揺した面持ちで、生唾をごくりと飲み込みます。そして受話器をもつマリーの側に寄ると、右手を出します。「ボ、ボクが対応するよ」

「お願い」と言って、マリーはそよ風に受話器を手渡します。

そよ風は、まるで目の前にプレスがいるかのように、姿勢を正すとお辞儀をして話し始めました。
「ワタクシ、この家の主であるそよ風と申します」

すると、聞き捨てならないといった感じで、リーフが言います。
「ナニ、この家の主はワシじゃぞ」

「ちょっと、お爺さん」マリーはしかめっ面の口元に人差し指を立て、リーフを叱ります。「シーッ!」

「ナニ、お呼びじゃない」とリーフは戯けてみせます。「これは、どうも失礼しました」

「ち、ちょっとお待ちください」そよ風はそう言うと、受話器に手を当て、小声でマリーに伝えます。「お母さん、申し訳ないんだけど、お父さんを別の部屋に連れて行ってもらえますか。気になって、対応できないから」

「わかったわ」
マリーはそう答えると、車椅子を押してリーフを食堂から連れ出しました。

ようやく食堂に静寂が戻りました。
食堂に残った家族は耳を澄まして、そよ風の電話応対を聞きます。

「ケンシロウさんの取材の件なんですけど…、お断りしたいんですが…、いや、そういうわけではなくて…、お断りする理由は、ケンシロウさんがもう地球に帰ってしまったからなんです…、いや、本当ですよ…、えっ、だったら、見に行く? そ、そんな信用してくださいよ…」

「えっ、来るの? 記者さん」
そよ風の話を聞き、ミントは困惑した表情をアルトに向けます。

「やだ、 アタシ、学校に行く時間だから、逃げちゃお」
アルトは食パンを牛乳で流し込むと、慌てて席を立ちました。

「そ、そんなぁ~」
ケンシロウは心細そうな目で、アルトの背中を追います。

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第七十九話 逃げ場のないケンシロウ

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「でも、すぐに記者さんくるんでしょ」とミントは言います。「とにかく、ケンシロウさんをどこかに隠さないと」

「うん、そうだね」そよ風は頷き、困ったように周囲を見回します。「でも、どこに隠れてもらえばいいのか…」

「寝室で、いいんじゃない」とケンシロウは提案します。「そこの押入れのなかに隠れて、プレスが帰るまで、息を潜めているよ」

「そんなのダメだよ」青空は小馬鹿にしたように笑います。「だって、かくれんぼした時、誰だって押入れの中を真っ先に探すよ」

第七十九話+のコピー_convert_20140714033938


「そうか…」
そよ風は腕を組んで唸ります。

「そんなに心配する必要ないと思うわよ」とミントは明るい声をかけます。「いくらなんでも、他所様の家の中を勝手に探しまわるなんて、失礼なことするわけないもの」

「だと、いいんだけど…」そよ風はまだ楽観的な気分になれないようです。「新聞記者ってのはしつこいし、疑い深いからね。特ダネをとるためなら、何だってするもんだよ」

「そうかぁ」
ミントは再び顔を曇らせます。

「それに、家族のそれぞれに、取材して回る可能性もある」とそよ風は言い、青空をチラリと見ます。「僕らはなんとか嘘をつけても、青空とお父さんがボロをだすんじゃないかと…」

「ねぇ、ボロって何、服がボロボロだってこと?」
青空はミントのエプロンを引っ張って訊きます。

ミントはそれに答えず、「だよねぇ」と言って、ため息をつきます。

「たとえ、今回はうまく逃げられたとしても、見張られる可能性もある」そよ風は、妻を上回る深いため息をつきます。「そうすれば、どこまで隠しきれるかどうか…」

「ああ、着ぐるみさえ早くできれば…」
ケンシロウは、情緒が不安定になったときにでる癖の貧乏ゆすりをはじめます。

すると、そよ風が何かをひらめいたように明るい表情を浮かべ、「あっ、そうだ」と大きな声をあげました。

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第八十話 妄想に酔うケンシロウ

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「ナ、ナニ、何かいいアイデアでも思いついたの?」
突然、大きな声をあげたそよ風に驚いてケンシロウは訊きます。

「うん」とそよ風は答えます。「ここにいたらケンシロウさんは逃げ切れないと思うから、着ぐるみができるまでの間、ブラウンさんの家に匿ってもらおうと思うんだ」

「それはいいアイデアね」ミントは手をはたいて、賛同します。「もしそうさせてもらえたら、ケンシロウさんの身の安全は守られるし、ケンシロウさんが窮屈な思いをしなくてもすむもの」

「そういうこと」
そよ風は頷いて、ケンシロウにウィンクします。

「でもブラウンさん、引き受けてくれるかしら」ミントは心配そうに表情を曇らせます。「たとえ、ブラウンさんが承知してくれても、ご家族に反対されたら」

「確か、ブラウンさんは一人娘がいると言っていたよねぇ」とそよ風は言います。

「ええ」とミントは答えます。「奥様は亡くなられたと言っていたから、その娘さんと二人暮らしかしら」

「たぶん」と頷くそよ風。そしてその顔は楽観的な明るい表情にかわります。「でも、その娘さん。ケンシロウさんに好意を抱いているそうじゃないか。だったら、ブラウンさんさえ承知してくれれば、うまくいくと思うよ」

「そうね」
ミントの表情も晴れます。

しかしそれ以上に、歓喜の笑顔を浮かべたのはケンシロウでした。
愛しのローズと一つ屋根の下で、しばらく暮らせる。
うまくいけば、一気に二人の距離は縮まるかも。ムフフ…。
そう妄想し、ケンシロウは鼻の下をだらしなく伸ばしました。

第八十話+のコピー_convert_20140715033720


「じゃ、さっそくブラウンさんに電話をかけてみるよ」
そよ風は再び受話器をあげると、電話のボタンを押し始めました。

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★あらすじ★


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マウントエレファント

Author:マウントエレファント
アルパカとバラとスプリング、つまり春(おまえはルー大柴か)を愛するナイスミドル?なサラリーマンです。でも同僚には、そんな趣味、ばらしません。キモイっていわれますから。残念!(古っ!)

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