第一話 転落事故

星がきれいに輝く夏の初め。一人の青年が思いつめた表情で橋の上から暗い川を眺めています。

ブルーな青年


人家もまばらな郊外なので、午前1時を回ったこの時刻になると、橋を渡る人や車はおらず、川の流れる音に混じって聞こえる鳥の鳴き声のほかは、何の物音もしません。

「やってられるか!」

その静寂を打ち破るように、突然、青年が大声を上げました。

「課長も、部長も、社長も、みんなクソだ」

「無茶ばっか言いやがって、それに見合った給料なんてもらってないっての」

「使えねえヤツだなんて、冗談じゃねえ。自分は遊んでいるくせに。パワハラ上司」

「あんな会社、ブラックだ。辞めてやる!」

そう叫ぶと、青年は右手にもった缶ビールを川に向かって投げ捨てました。飲みかけのビールが弧を描いて川面に落ちていきます。相当、うっぷんがたまっているようです。

「といっても、就職難のこのご時世、辞めても地獄が待っているだけか…」

今度は一転、沈んだ声。

「今ですら結婚なんてできる状態じゃないのに、プーになったら余計結婚が遠のくだろうな…」

いったんネガテイブな発想に陥ると、もし親が要介護になったらどうしようだの、年金がもらえなかったら老後はどうなるんだだの、次々と将来の不安が彼の胸中に押し寄せてきました。

「俺、やっていかれるだろうか…」

投身自殺をしてしまいたいような衝動に駆られ、青年は欄干を軸にして上半身を深く折り曲げました。

一歩間違えれば、本当に落下してしまいそうな体勢でしたが、ちゃんと身を守る計算をしていました。本気で自殺するつもりはなかったのです。ただ、その願望を少し実行することで、癒しを得たかっただけなのです。

「しまった!」

ところが、計算外の事態が起こりました。

ファスナーを閉め忘れていたせいで、背負ったリックサックから、書類がずれ落ちてしまったのです。

その書類は、課長から渡された重要な資料でした。もし、その書類を無くしたことが課長に知られたら、どんな叱責を受けるかしれません。

とっさに、紙吹雪のように舞い落ちていく書類を拾おうと、青年は身を伸ばして両手をばたつかせてしまいました。

うぁぁぁっ〜。

その直後、青年の身体はゆったりと舞う書類を追い越す勢いで、暗い川面に落下していきました。

次へ

スポンサーサイト

第二話 命拾い

うぁぁぁ~っ

死ぬ瞬間はスローモーションのようにすべての光景がゆっくり見えるといいますが、青年はそれはウソだと思いました。

青年がどんなにあがいてみても、その抵抗空しく、見る見る間に川面が迫ってきます。

もうダメだ、と目をつぶった瞬間、青年の体は毛布のような柔らかな物体の上に沈み込みました。

と、同時に

ギャー!!

耳をつんざく悲鳴。

青年は仰天して、反射的に目を見開きました。

目の前に映ったのは、毛むくじゃらの白い物体。

巨大な鳥? それとも妖怪?

皆目見当がつかず、青年は激しく動揺しました。

しかし、ここで手を離したら、ゴーゴーと激しく流れる川に飲み込まれてしまいます。

彼は、あらん限りの力で救いの神?にしがみつきました。

第二話修正+のコピー_convert_20130608064005


一方、白い妖怪も必死でした。ゼーゼーと荒い息を吐きながら、川岸に向かって短い羽をばたつかせています。

青年を振り落とそうとする白い妖怪の戦いと、そうはさせまいとする青年の戦い。

その根性比べは川岸で終焉しました。

青年の体は砂地に放り出され、妖怪の体もそこでのびました。

いったい何者なんだ…。

青年が痛む背中を起こすと、その白い物体はろくろっ首のような長い首を持ちあげて彼の方に顔をむけました。

ひ~っ!!

青年は仰天して、腰を抜かしてしまいました。

前へ

次へ

★あらすじ★


第三話 つかの間の安堵

ひ〜っ!!

ろくろっ首のような長い首が起きあがった時、青年はやはりこの物体は妖怪だったのだと確信しました。

ところが、振り向いた顔は、予想に反してとても愛らしいものでした。

ぷっ

あまりのギャップに恐怖を忘れ、青年は思わず吹き出してしまいました。

第三話+のコピー_convert_20130609100724


でも、どこかで見たことのある生き物だなぁ…。

怯えた表情で青年を見るその生き物を凝視しながら、青年はその生き物と合致する動物をフル回転で検索しました。

「そうか。アルパカだ!」

…でも、アルパカって、空を飛べたっけ?

やはり自分は川に落ちて、その衝撃で気絶し、おかしな夢でも見ているに違いないと青年は思いました。

「どうして知っているんですか? アルパカって」

「は?」

いきなりその生き物に訊かれ、青年は呆然としました。

やはりこれは夢だ。…いや。夢あってもわらなければ困る!

しかし、その生き物は青年の願望を打ち砕くような、はっきりとした口調で聞き直してきました。

「だから、どうして僕がアルパカ星から来たって知っているんですか?」

ウソだ!ウソだ!ウソだ!


青年は頬を思い切りつねり、目の前で起こっている受け入れがたい光景が夢であることを確認してみました。

痛っ!

夢でないのか…。

わーっ!!

青年はあまりの恐怖に絶叫しました。

すると、突然、背後の茂みがガサガサと音がして、

「やっと、見つけましたよ。困るじゃないですか」

何者かの声が聞こえてきました。

前へ

次へ

★あらすじ★

第四話 新たな妖怪

「困りますよ。集合時間を守っていただかないと。もう5時間も出発時刻を過ぎているんですよ。他のお客様にも、だいぶご迷惑がかかってますし、ツアーの予定も大幅に狂ってしまって、私も、あたたっ、頭が痛いですよ」

背後の茂みの方から、いら立った男の声が聞こえてきました。

助かった、と青年は胸をなでおろしました。

ツアーということは、どこかの旅行会社の添乗員に違いない。それにしても、深夜のこんな辺鄙なところに通りかかってくれるなんて…。くう~っ、ラッキー。助けを求めて、早くここから逃げだそう。

青年は嬉々とした表情で振り返り、大声で呼びかけました。

「助けてくださ~い!!」

が、しかし…。

えっ…。

目が合ったのは、想像していたナイスミドルの添乗員ではなく、またもや首のながい妖怪でした。

しかし、アルパカとは微妙に違い、茶色い毛はアルパカのようにふかふかしていませんし、顔もアルパカほど愛らしくありませんでした。

新たな妖怪は青年と目が合うと、ギョッとした表情になり、

「ちょ、ちょっと、これはどういうことですか。まずいなあ…」

と、さらにいら立った声をあげ、

「あれほど、地球人と接触しないように注意したのに、どうして…」

四話+のコピー_convert_20130611204645

茂みを掻き分けながら、アルパカ星人ににじり寄ってきました。

「すみません。仲間とはぐれてさまよっていたら、ちょっと、アクシデントが起きてしまいまして…」

アルパカ星人はピンク色のかわいらしいベロをだして、ペコリと頭をさげました。

「笑顔で済ませられるような軽い話じゃないですよ。このことがラマ観光に知られたら、私の立場が…」

ううぷっ

いきなり嘔吐くと、ラマ観光とやらの添乗員は大量の嘔吐物をはきました。

くさ~っ!!

この世のものとも思えない悪臭を放つ嘔吐物のしずくが顔にかかり、青年はもらいゲロをしそうになってしまいました。

前へ

次へ

★あらすじ★

第五話 絶体絶命

ふ〜っ

添乗員は口元についた嘔吐物を拭いながら、ジロリと青年をにらみました。

「こうなったら、消えてもらうしかないな」

消えてもらうって、もしかして殺すってこと…。青年は凍りつきました。

「ひ〜っ、助けてください!!」

青年は地面に額を擦り付け、後頭部の上で合掌しました。ほんの数分前、自殺を考えていた者とは思えないような、必死の命乞いです。

「殺すなんて物騒なこと止めましょうよ。黙っていてもらえば、済む話じゃないですか」

アルパカ星人のまさかの援軍。コイツ、けっこういい奴かも…。青年はアルパカ星人を少し好きになりました。

「ケッ。甘いね」添乗員はツバを地面に吐き捨て、「人が良すぎるんだよ、アルパカ星人は」

「いや、信じてあげましょうよ」アルパカ星人は青年に目配せし、同意を促しました。「誰にも話さないって、約束してくれますよねぇ」

「はい。約束します」青年は全身全霊をこめて断言しました。「絶対、誰にも言いません!」


「ダメだね」添乗員は頭を振って、冷たく却下しました。「地球人は信用出来ないって有名だし、特にあなた…軽そうだから」

「そんなぁ…」がっくりと項垂れる青年。

「かわいそうだけど」添乗員は手提げかばんのなかを探りながら、「万全を期さないと、安心できないんで」

そう言うと、拳銃を取り出し、銃口を青年に向けました。

第5話+のコピー_convert_20130613125923


「た、助けて」反射的に銃口から背を向ける青年。

「ちょっと、やめて」背後から、銃殺を阻止しようとするアルパカ星人の声。

バーン!!!!!!!!!

闇夜に響く銃声とともに、青年の身体は前のめりに倒れていきました。

前へ

次へ

★あらすじ★

02 | 2017/03 | 03
Su Mo Tu We Th Fr Sa
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -
プロフィール

マウントエレファント

Author:マウントエレファント
アルパカとバラとスプリング、つまり春(おまえはルー大柴か)を愛するナイスミドル?なサラリーマンです。でも同僚には、そんな趣味、ばらしません。キモイっていわれますから。残念!(古っ!)

にほんブログ村
ランキングに参加しています。投票していただけると励みになります。
ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村 にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
にほんブログ村 にほんブログ村 イラストブログ 挿絵へ
にほんブログ村 にほんブログ村 漫画ブログ 4コマ漫画へ
にほんブログ村
人気ブログランキング
ランキングに参加しています。投票していただけると励みになります。
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
小説・文学
303位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
SF
1位
アクセスランキングを見る>>
最新記事
カテゴリ
英検準1級単語ドリル 黒猫版
日々の努力が実を結ぶ

計算×50
頭の体操にどうぞ
名言
不安な明日も先人の励ましで乗りきりましょう

地球の名言 -名言集-

最新コメント
お気軽にコメントをどうぞ
月別アーカイブ
アクセスカウンター
リンク
リンクフリーです
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

検索フォーム
QRコード
QR
RSSリンクの表示
最新トラックバック
カテゴリ