暢気なジョギング男

あ~あ、と重いため息をつきながら、近所のコンビニに夕飯の弁当を買いに歩く俺。真冬の冷たい風が身にしみ、心は余計に凍えるばかりだ。
そんな暗い気持ちで俯きながら歩いていると、ドンと俺の肩を突き飛ばす衝撃を受けた。
「な、なんだ。痛ぇな!」
俺は蓄積された苛立ちをぶつけるように、肩に当たった相手に眼を飛ばした。
「あっ、すいません」
そいつは、こちらとは真逆な爽やかな声で素直に謝ってきた。
怒りのおさまらない俺は、チッと舌打ちをしてそいつを睨むと、驚いたことに同じ会社の若者だった。
「あっ、S先輩じゃないですか」
そいつも俺が誰なのかを気がつかなかったらしく、驚きよりも、親しみを込めた軽やかな声をかけてきた。
「おお、O君じゃないか。こんな寒風が吹きすさぶ夕暮れにジョギングか?」
俺もつられて態度を軟化し、笑顔で応えた。
「はい。これが休日の楽しみですので」と職場と変わらず屈託のない笑顔で応える彼。会社の状況が厳しいのにかかわらず、どのくらい楽観的なのかと呆れるくらいだ。
その侮辱の気持ちがつい表に出てしまい、「こういう厳しい状態で、よく暢気にジョギングなんてできるね」と皮肉を言ってしまった。
ところがである。
彼はそれも爽やかに受け流し、「だからこそ、クヨクヨ考えるより、どんな状況にも負けない体力を養ったほうがマシだと思って走っているんです」と答えた。
それには、俺も返す言葉がなかった。
俺は自分を恥じ入りながらコンビニ入り、寝酒に飲もうとした日本酒も買わずに家に帰った。


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子ども相談室

せっかくの休日だが、俺の心は仕事の悩みから解放されていない。
もうこの状態が続いて、3週間が経つ。
いつになったら心が晴れるのか、時計の秒針が止まることのないように、俺の心の中は同じようなことばかり、グルグルと悩んでいたのだった。
俺はついにそれに耐えられなくなり、もうイヤだ!と心の中で叫びながら、ソファの上で寝返りを打った。
その時だった。
「パパ、遊ぼうよ」
と6歳になる息子が俺に無邪気な声をかけてきた。
「う~ん。今はちょっと無理かな」
俺はできるだけ優しい声で、息子の誘いを断った。
「どうして?」
「今忙しいから」
「えーっ、朝から寝てるだけじゃん。どこが忙しいの」
息子は、だらけきった俺の身体を揺すって、俺をソファーから起こそうとする。
「寝ているんじゃなくて、いろいろ頭の中でお仕事をしているんだよ」
俺は、かわいい息子にすら、危うく苛ついた感情をぶつけそうになった。
寝てばかりいると息子は言ったが、俺はこのところ不眠症に苦しめられている。そんな悩みを抱えている人間に、その指摘は無性に腹の立つことだったからだ。
しかし息子は執拗に俺を攻めてきた。
「じゃ、心の中で何が忙しいか、時間表をみしてみてよ」
「時間表?」
「そう、今日の朝から、心の中が何が忙しいか、これに書いてみて」
息子は、テーブルの上に置いてある裏が白い広告を取ると、それをペンと一緒に俺の前につきだした。
うるせ~なぁ、と思いながらも、俺はしぶしぶ起き上がると、そこに円をえがき、起床の7時から現在の14時までのあいだ、何の区切りもいれず「お仕事の悩み」と書いた。
それを見た息子は、「悩みって何?」と無垢な目で訊いてきた。
「苦しい考えだよ」
悩みのない息子をうらやましく思いながら、俺はそう説明した。
「ふうん」と息子はしばらく考えていたが、急にニコリと笑うと、「じゃ、やっぱり遊んだ方が良いよ」と言った。
「なんで?」
「だって、この時間表に、楽しいことを考える時間が入っていないもん」
息子のその一言に、俺はハッと気づかされた。
俺は14時からの予定を変更しようと、笑顔で息子を抱き上げて、「公園にでもいくか」と明るい声をあげた。

幽霊ホテル

気むずかしいと評判の顧客との商談をまとめなければならならないという極度のプレシャーを抱えたまま、オレは初めて訪れるS市の駅に下りた。

空は今にも雨が降り出しそうな厚い雲で覆われており、オレの気分をますます暗くさせる。
その街の顔ともいえる駅前も、古ぼけたショッピングセンターの建物の陰に、シャッターが閉まった商店街が立ち並んでおり、陰鬱な光景だ。

「こんな街に、本当に運気を高めてくれるホテルなんてあるのだろうか?」

オレは心細くなりながら、面倒見の良い先輩から教えられたホテルに向かって足を進めた。

ホテルは、駅から歩いて5分のところにあった。
しかし、オレは目を疑った。
そのホテルは、5階建ての古い建物で、白壁は煤けたように汚れており、客室のカーテンも日焼けして破れているのすらある。

道中、いくらでもこれよりマシなホテルがあったのに、先輩はなぜここを勧めたのか…。
オレには、このホテルがとても運気を高めてくれるものとは思えなかった。

しかし予約はすでにしてしまっている。
覚悟を決めてホテルに入ろうとすると、後ろを通り過ぎたカップルが、「ここでるんでしょ」「そうそう」と聞き捨てならない会話を残して去って行った。

「マジかよ…」
オレの心にまた迷いが生じた。
自腹で別のホテルに替えるか…。
しかしあの後輩思いの優しい先輩が騙すわけがない。
しゃあない。先輩を信じるか。

オレは、先輩から渡されたお守りに手を当てると、意を決してホテルに入った。

ホテルのなかも、薄汚れていた。
使い古した革張りのソファーは角が破れ、そのまえのテーブルには読みかけの新聞がほうりだしてある。
蛍光灯も切れかかって点滅しているのすらある。
ジジジ、というその点滅音がするだけで、ホテル内は恐ろしいくらい静かだ。
まさか、今日の宿泊客はオレ一人なのか…。
戸惑ってカウンターに近づくと、その向こうで居眠りをしていた黒縁の眼鏡をかけたじいさんが目を開けた。

「らっしゃい」
じいさんは涎をふきながら挨拶をすると、オレが名前を名乗る前に、オレの名前を確認してきた。
やはり、宿泊客はオレだけなんだな…。
オレは心を暗くしながら、宿泊の手続きをした。

渡された部屋のキーには、「13」という不吉な部屋番号が印されてあった。
いくらでも部屋が空いているだろうに、なんでそんな部屋なんだよ…。
オレは重い足取りで、2階にあるというその部屋に向かった。

部屋の中は外観で見たとおり日焼けしたカーテンがかかっていたが、空気はジメジメとした感じだ。
腰をおろしたベッドのシーツも湿っぽく、気持ちが悪い。
いかにも幽霊がでてきそうなこの部屋で一晩過ごすのかと思うと、オレは安眠する自信を失った。

その不安は的中した。
幽霊がでるのではという恐怖感と、翌日に待ち構える仕事の緊張感で、まったく眠れず、オレは先輩からもらったお守りを握りしめて気の狂いそうな一晩を過ごした。

結果的には、幽霊はでなかった。
日焼けしたカーテンを開けると、昨日と打って変わって見事な快晴。

その朝陽を照らして、オレは先輩から朝になったら読むようにいわれていたお守りの中に入っている手紙を開いてみた。

そこには、こう書かれてあった。

先入観にとらわれず当たれ

確かにその通りだ。
実体験をとおして諭してくれた先輩に感謝するように、オレは朝陽に手を合わせた。

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第五十九話 残された道

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「そ、それはどんな手ですか!」
収入の道が閉ざされ、そよ風家のお荷物になりかねない立場に追い込まれていることを知り、途方に暮れていたケンシロウ。しかし、最終手段はあるとマリーが口にしたことに敏感に反応し、すがる思いで訊きました。

「それはね…」とマリーは言いかけましたが、腕を組むと、「でも、ちょっと難しいかしら」と唸ります。

「な、何なんですか。教えて下さいよ」

「でも、頑張れる?」情けない表情で懇願するケンシロウの顔を見て、マリーは心配そうに訊きます。「結構大変だと思うけど」

「まぁ、それは話の内容によりますけど…」いきなり弱気な口調になるケンシロウ。しかし好奇心が勝り、「でも、教えてください!」と力強く頭を下げ、催促しました。

「まぁ、いいわ。内容を聞いて、アナタが判断すればいい話だから」マリーは頷くと、ケンシロウの目を見据えて言いました。「それはね、アルパカ星人になることよ」

「えっ!」膨らみかけたケンシロウの希望は一気にしぼみました。「そんなの無理ですよ。どんなに整形しても、アルパカ星人になれるわけがないし…」

すると、マリーは「バカね。そんなの無理に決まっているじゃない」と言って、吹き出しました。「そんなことを言ってるんじゃないの」

再び希望が膨らみだしたケンシロウ。「じゃあ、どうすればアルパカ星人になれるんですか?」と勢い込んで訊きます。

「それは、アナタがアルパカ星人になる資格があると認められ、認定証を得ることよ」

「認定証ですか…」
ケンシロウは、地球で国籍を得る場合はどうだったっけなぁ、と思い出してみました。
あまり詳しくないので、自信はありませんでしたが、その国に一定期間住んで、素行がよろしければ、得られたように思います。それなら、何とかなりそうだと楽観的に受け止めました。

しかし、マリーは重々しい口調で説明し始めました。「それには、アルパカ星人にふさわしい生活ができる人柄かを知る審査にパスすることはもちろん、アルパカ星で働く能力があることを知るための試験。それから一定期間働いて、その働きぶりから就労試験を受けられる資格を得て、はじめてアルパカ星人になれるのよ」

「試験試験の連続ですね。大変そう」
勉強嫌いのケンシロウは、早くも音を上げます。

「でも、頑張って認定証をとらなければ、結婚もできないわよ」

「結婚!」ケンシロウの脳裏に、愛しのローズの笑顔が浮かびます。とたんに、やる気が湧いてきて、「じゃ、頑張らないと。まずは何からやればいいですか?」

マリーは、そよ風家の畑を指さして即答します。「まずは、畑仕事からよ」

「わかりました!」
ケンシロウは、農具入れに掛かっていた鍬を手にとると、ものすごい馬力で畑を耕し始めました。

第五十九話+のコピー_convert_20140112155734

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★あらすじ★

厄払いの騎士

昨日は、仕事中にちょっとした物損事故を起こしてしまいました。

リフトで荷物を運搬する最中、柱にリフトの後部をぶつけてしまい、柱のコンクリートをすこし割ってしまったのです。
新しい部署に移ったばかりで気持ちに余裕がなかった上、リフトの運転にも慣れておらず、しかも恐ろしくスペースが狭いところでの作業。つまり初心者がいきなりスキーの上級者コースに挑戦するような無茶をした上での失敗でした。

しかし嘆いていても、壊れたコンクリートが自然に復元されるわけではありません。すぐに課長に報告の電話を入れました。

課長は、5分と経たないうちに、現場に飛んできました。
すぐに謝罪し、事の顛末を説明。そしてリフトの運転に慣れていなかったことも事故原因のひとつにあげました。

すると課長は、「それは理由になりません」と一蹴。そして、連日のように物損事故が起きて頭が痛いのに、今日もその報告をあげなければならないのかと顔を暗くしながら、部長に電話をかけました。

電話が終わると、課長は「こっちはいいですから、仕事を続けて下さい」と指示を出しました。
が、すぐに気分を切り替えてリフトを運転できるような精神状態ではありません。
同僚に電話をかけ、リフト作業の続きをお願いすることにしました。

有り難いことに、同僚は快く仕事を引き受けてくれ、さすがは上級者と称えたくなる巧みなテクニックで軽快に作業をこなします。
ボクには、彼がまるで敵をバッタバッタと切り倒す頼もしい騎士のように見えました。

ボクと課長は、彼に仕事を預け、それぞれの仕事に戻ろうとしました。

と、その時です。
背後から、「ヤバ!」という同僚の声。
ふり向くと、同僚は苦い顔をしてリフト前の資材を見つめています。

駆けより、「どうしました?」と尋ねると、「ぶつけちまった」との返事。
課長もガックリと肩を落とし、「またですか」と落胆の声。
猿も木から落ちるか…。

振り返れば、仕事始めから毎日のようにトラブルの連続で、初詣ぐらいでは足りず、厄払いでもしてもらうかなんて弱気なことを考えていた今日この頃でした。
そのトラブルの連鎖は、いつになったら終わるのか…。
ますます弱気になってきました。

でも、トラブルの連鎖を厄と受け取る考え方は、神に対する冒涜ではないかとも、ふと思いました。
なぜなら、自分の不注意や未熟さを、天のせいにしているようなものだからです。
その様な考え方を改めない限り、同様の事故は繰り返され、トラブルからは抜け出せないでしょう。

これからは、より一層、ネジを締めていこうと心に誓った一日になりました。

地獄の寒中散歩

日本列島、大寒波に覆われているということで、今日はとても寒いですね。
時々晴れ間がでるものの、風が冷たく、あまり外出したくない陽気であります。

というわけで、今日は散歩をサボっちゃおうかな、なんてグズグズ迷っていました。
でも、散歩の時間の午後二時が近づくと、散歩に行きたくなりムズムズしてくるんですよね。

窓から外を見れば、散歩を日課にしている近所のご隠居さんも、ちょうど散歩に出かけるところ。寒さを言い訳に、温い家の中にこもってなんかいません。

となれば、ワタシも怠けるわけにはいきません。
ご隠居さんに習い、マスクをするなどきちっと防寒対策をして出かけようと思い、マスクを手にとると、思い切って玄関のドアを開けたのでありました。

しかし外は、散歩どころか、三歩進んだら家に戻りたくなるような寒さ。
さっそく折れかかりましたが、いやいやこれじゃいかんと未練を振り切るように、マスクをする手間も惜しんで、引き返すのが面倒になるくらいの距離まで早足で進んだのであります。

そして、ま、このへんでいいだろうと思ったところで、いつものようにラジオをつけ、イヤホンを耳にさし、それからマスクをしようと思ったら、な、なんと、マスクが見当たらないのでございます。
そんなはずはないと、上着とズボンについている全部のポケットを探してみましたが、どこにもありません。となると、道中に落としてきたか、家に置いてきたかのどちらか。でも、今更戻りたくありません。

となれば、一刻も早く散歩を再開して、寒風に当たる時間を短縮するのが得策です。
ということで、マスク代わりにできるだけ顔を覆えるようにと上着の襟を立て、再び寒中散歩を強行したのであります。

しかし、しばらくすると、寒さのせいか、尿意をもよおしてきました。
我慢をしようと思いましたが、数十メートル歩くごとに、尿意が強まってきます。
NHK-FMでは、「今日は一日”昭和のコーラス・グループ”三昧」ということで、昔懐かしいホームドラマの平和なテーマソングが流れていましたが、コッチはそんな気分ではありません。
近くの公衆便所まで何とか乗り切って、危機を脱しようと、早足からついには小走りになってしまいました。

そして、ようやくソコに到着したのでありますが、何と、便所の出入口はシャッターで閉められ、おまけに、まわりには厳重に鎖が張られているじゃありませんか…。
絶望感につつまれながら、シャッターにはられた紙を読むと、凍結防止のために3月までこのトイレは使えません、とのこと。

この後の我慢は筆舌には尽くしがたいものでした。
そこからできるだけ近道を選び、ウチまで耐えに耐え、なんとか難を逃れましたが、ホント、危機一髪でした。

そして…。

ようやく地獄から解放されたと安堵の息をつきながら手を洗い、何気に洗面所の鏡を見ると、タートルネックのフリースの上には探してたマスクが…。
三歩進んで家に戻ったほうが正解だったと、自分でも呆れ返る寒中散歩でした。

おせちに飽きたら

早いもので、もうお正月も終わり、成人式の日になってしまいました。
正月は、いっぱいおせち料理などを食べ、ちょっとダイエットをしなければと思う今日このごろです。
それにしても、おせち料理には子供の好きそうなもの、あまり入っていませんね。
昔、「おせちにもいいけど、カレーもね」なんてコマーシャルがありましたが、これほど子供の心に響く宣伝文句はないのではないでしょうか。
そこで、今回は「おせち」をテーマに4コマ漫画を描いてみました。

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第五十八話 そよ風家のお荷物

★初めての方はこちらから★

六人分の収穫が見込めるという、そよ風家の家族数に合ったサイズの農地を市から借りているとマリーから説明を受けたケンシロウ。しかし、すぐに自分がその数に加わっていないことに気がつき、それを指摘すると、
「もちろん、入っていないわよ」
と、マリーはさらりと答えました。

「やっぱり…」
キビシイ現実を突きつけられ、肩を落とすケンシロウ。

「今のうちは、備蓄分があるからなんとかなるけれど、それが尽きたら…」マリーは深刻な表情のケンシロウに合わせるように声を暗く落とすと、商業ゾーンになっているという外壁の上層部を指さし、「アナタの分はアソコで買わなければならなくなるわね」と言いました。

「アソコで買うって…」ケンシロウの表情はさらに曇ります。「アルパカ星のみんなが受けているという、ベーシックインカムみたいな支給金も、ボクにはないんですよね」

「そうね」一層、沈むマリーの声。

「じゃ、ボクはそよ風家にとって、とんだお荷物ってわけか…」
ケンシロウは自分の立場を思い知らされ、これからどうやって生きていったらいいか途方に暮れました。

第五十八話+のコピー_convert_20140112155455


「まぁ、そんなに心配しなさんな」
マリーは、そんなケンシロウを励ますように、彼の肩に優しく手をおきます。

しかしその励ましも、ケンシロウには虚しく感じられるばかりした。
ケンシロウは、マリーの手を振り落とさんばかりに肩を激しく揺らして、責めるように言います。「でも、どんなに畑仕事のお手伝いをしても、この畑からボクの分の野菜が余計に採れるわけではないし、どんなにリーフの介護や家事のお手伝いをしても、ボクの分の食費が稼げるわけではないでしょう」

「それは、そうだけど…」

「だったら、死ぬまでみんなに迷惑をかけるだけだ…」
そんなの嫌だと言わんばかりに、ケンシロウは激しく首を左右に振ります。

「そうかね」マリーは深くため息をついたあと、重々しく言いました。「それなら、残る手はアレだけだわね」

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★あらすじ★

第五十七話 「足るを知る」でハッピーに

★初めての方はこちらから★

昨年の台風で農園が全損という大ダメージを受けたにもかかわらず、それほど苦労せずとも立ち直れたと話すマリー。
見ると、そよ風家の農園に限らず、どの農園も見事に復興しており、大勢のアルパカ星人が農作業に汗を光らせています。

「全損ということは、一年の稼ぎを失ったって事ですよね。なのに、どの農園もたった一年で何事もなかったかのように復興できたんですか?」
ケンシロウは、彼らの驚異的な復興力の秘密を知りたくって、マリーに尋ねました。

しかし、マリーはキョトンとした顔で、逆に聞き返してきました。「農作業って、稼ぐためにするものなのかい?」

「え、え、えっ、そうなんですか?」
地球人の価値観を覆す質問に、たじろぐケンシロウ。

「そうよ」その価値観を吹き飛ばすように、マリーは笑い飛ばします。「みんな、稼ぐためじゃなくって、自分たちでつくった安全で新鮮な野菜や果物を家族でおいしく食べるために、農作業に励んでいるのよ。こんなやりがいのあることないじゃない?」

「でも、稼げたほうが、もっとやりがいが出るんじゃないですか?」
吹き飛ばされた価値観を、自信に欠けた弱々しい鼻息でひっくり返そうとするケンシロウ。

しかし、マリーは強く首を横に振り、「そんなに欲張ったら、他のことをやる時間が奪われちゃうし、畑仕事の楽しみをみんなから奪うことになっちゃうじゃない」

「畑仕事の喜びをみんなから奪う、それはなぜ?」

「やだ、そんなこともわからないの」マリーは、呆れたような目でケンシロウを見ます。「だって、稼ぐことを目的にすれば、利益の奪い合いが始まるじゃないの。そうすれば、負ける人が出てきて、みんなが平和に畑仕事を楽しむどころではなくなってしまうじゃない」

「うむっ…」
ケンシロウは、地球での地獄のようなサラリーマン生活を思い出し、声を詰まらせてしまいました。
確かにあの頃は、ライバルから利益を奪うために、過酷な長時間労働を強いられ、生きた心地がしなかったなぁ。そしてそれほど頑張っても、もらえる給料は微々たるもの。働く喜びなんて、ちっともなかった…。

マリーは続けます。「それに、稼ぐことを目的にすれば、もっと、もっとと、農地を拡大することになって、自然をどんどん破壊していくことになるわ。欲張って過剰に生産すれば、モノを粗末にすることになるし、こんな馬鹿らしいことないじゃない」

「それは、そうですね」

「収入は、どの人にも最低限の生活が送れるくらいのものが支給されるし、他の仕事で少しの贅沢ができる分は稼げているから、農業で稼ぎを考える必要がないの。いわば、『足るを知る』農業を目指せば、ハッピーに暮らせるってこと。だから市も、それぞれの家庭の規模に見合った農地しか貸してくれないのよ」

「へぇ~、それぞれの家庭にあった規模の農地をねぇ」
ケンシロウは広大な農地で、分散するように小さな集団をつくって働くアルパカ星人を眺めます。

「そう、だから、ウチだったら6人分の農作物がとれる農地が借りられるってことね」と言って、マリーは両手を使って6本の指を立てました。

第五十七話+のコピー_convert_20140103112714

「ふうん」と言って、そよ風ファミリーの顔を思い浮かべながらマリーの指を数えるケンシロウ。と、そこで、見逃せない事実に気がつき、声をあげました。「その数に、オレ、入っていないじゃん!」

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★あらすじ★


第五十六話 脅威の復興力

★初めての方はこちらから★

「でも…」
昨年の台風による農作物の被害の程度をケンシロウに尋ねられると、マリーはウッと唸り、声を詰まらせました。

「でも、何ですか?」
ケンシロウは、悔しそうに口端を噛むマリーの顔を覗き込みます。

すると、マリーは、手前の畑に向けてクイッとアゴを突き出し、「ワタシが育てたこの畑の野菜は全滅だったけど、被害にあわずに済んだ農園もあったわ」と答えました。

「それは、どの農園ですか?」

マリーは外壁の方に身体を向けると、大きく両手を広げて、前方に手を煽りました。
「この外壁の真裏の農園よ」

「ということは」と言って、ケンシロウはそよ風家の畑の方に顔を向けます。「つまり風はコチラから吹いてきたということですか?」

「そういうこと…」マリーは深い溜息をついて頷きます。「ウチの耕す畑は、モロに強風を受けちゃったからダメだったけど、外壁のムコウの農園は、この高い外壁が強風をブロックしてくれたから助かったってわけ。ま、そういうことも期待して設計された外壁の威力が実証されたことを、喜ばなければいけないんだろうけどね」

第五十六話+のコピー_convert_20140101110249

「それは、大損害でしたね」
ケンシロウは、地球で農業をやっていた親戚のことを思い出して同情を寄せました。
その親戚も、台風で畑をやられ、大損害を被ったのでした。
しかし、高齢で資金もなかったので、立ち直る余力もなく、農業を諦めざるをえなくなってしまったのです。
老夫婦で暮らしていたその親戚に比べ、マリーは息子夫婦と暮らしているので、そこまで追い詰められなくって済んだのでしょうが、ここまで復興するには、かなりの労力と資金を注いだに違いありません。

しかしマリーはさらりと、「それほどでも、なかったけどね」と答えました。「確かに、ダメになった作物を片付けて、一から作付けをするのは大変だったけど、そんなにお金を使わずに済んだから、すぐに立ち直れたわよ」

「えっ?」
そよ風家の驚異的な復興力の源がわからないケンシロウは、戸惑いの声をあげました。

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★あらすじ★

今年もよろしくお願いします

明けましておめでとうございます。

昨年は、いろいろお世話になりました。
皆さまのご支援のもとに、楽しくブログの運営をさせていただくことが出来ました。

ブログを開始したのは、昨年6月。早いもので、もう7ヶ月が経ってしまいました。
その間いろいろありました。
初心者マークの拙い記事が、こんなにランキング上位に入っていいの! なんて驚いたこと。4コマ漫画に挑戦し、そのおもしろさに夢中になったこと。ノロウィルスにかかったこと(あっ、これはブログと関係ないか)。いずれにしても、ブログの面白さにハマり、それを励みに2013年を乗り切ることが出来ました。

しかし、まだまだ初心者マークであることに変わりはありません。
皆さまにはご迷惑でしょうが、習作を書くような気軽な気持ちで、今年も楽しく記事を投稿していきたいと思っております。

私生活では、新年早々、職場の担当替えで新しい仕事を覚えなければならないなど、ブログに集中できない状況がしばらく続くと思います。
スロースタートのブログ運営になると思いますが、何卒、本年もよろしくお願いします。

2012新年挨拶+のコピー_convert_20131231193704

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プロフィール

マウントエレファント

Author:マウントエレファント
アルパカとバラとスプリング、つまり春(おまえはルー大柴か)を愛するナイスミドル?なサラリーマンです。でも同僚には、そんな趣味、ばらしません。キモイっていわれますから。残念!(古っ!)

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