博士の迷言

私は、長年タイムマシンの開発に打ち込んでいる博士のもとで働いている。

今日は、博士の88歳の誕生日だ。
博士のもとで働く、20名のスタッフとともに誕生日会を開いた。

研究成果が一向に出ない日々を送り続けているにもかかわらず、博士は上機嫌だった。

博士は、乾杯の後のビールをおいしそうに飲み干すと言った。
「ワシも、タイムマシンの研究をはじめて50年になるのう。こうやって今も、夢を持ち続けられるのは幸せじゃよ」

「いつまでも青春ですね」
と私が言うと、みんなは拍手をした。

しかし誰も本音は、博士は人生を浪費したまま終わってしまうのではないかと、虚しい気分でいたのではないか。
博士は100歳まで生きられそうなくらい元気だが、いつお迎えがきてもおかしくない年齢だ。
なのに、タイムマシンの開発に成功できる目処はたっていない。

博士が生きているうちに、少しでも光がみえるのか…。
無理だと誰もが感じている、いや、確信しているはずだ。
博士の存命中はおろか、私たちが生きているうちにも、開発に成功するのは不可能であるとすら思っている。

でも、誰もそんな不安を口に出せない。
高齢の博士がめげずに情熱を注ぎ続けているのだ。
その情熱には尊敬を抱くし、若い私たちがそれに負けるのは恥ずかしいと思っているからだ。

ところが、博士のかわいい6歳の孫娘が博士に花束を渡すときに、ついに言ってはいけないことを口走ってしまった。
「おじいちゃんの生きているうちに、タイムマシンができなかったら、おじいちゃんの人生って悲しいね」

「うむっ」と博士はしわくちゃの喉をふるわせた。

私たちは、マズい空気が充満するこの部屋から逃げ出したい衝動に駆られた。
しかしその一方で、我々の気持ちを代弁してくれた孫娘に感謝し、博士の答えを聞きたい好奇心がそれを上回った。

博士は凍りついた表情を笑顔に切り替えて答えた。
「確かにワシももう歳だ。残された時間はすくないだろう」

「だよね」と、孫娘は無邪気に爆弾発言を続ける。

「だが、有限なのはワシの時間だけじゃ。ワシが死んでも、時間は無限につづく」と博士は力強く言って、我々に顔をむけた。「だから、諸君たちや、その後の若い人たちが、ワシの情熱を継いでいってくれれば、いつか不可能が可能になる日が来るはずだと、ワシは信じとる」

博士の名言に打たれ、今度はみんな本気の拍手をした。

博士は満足そうにうなずき、そしてこう付け加えた。
「そこでじゃ、君らに後世の同志に伝えてもらいたい事がある」

「なんですか?」と私は身をのりだして訊いた。

博士は老人とは思えぬキラキラした瞳で答えた。
「タイムマシンの開発に成功したら、この時代にタイムスリップして、ワシに会いに来てくれと。そうすれば、ワシの人生も報われる」

第二話へ

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名医の迷言

最近、どうも胃の調子が悪い。
激務のストレスで、悪い病気にかかっているのではないかと心配になって、近所の医者に診てもらうことにした。

妻から聞いた話では、この医者は名医と有名だそうで、正確な診断をしてもらえるという期待と、悪い結果だったらどうしようという不安で、かなり緊張して名前が呼ばれるのを待った。

予約をしていったので、ほどなくして名前が呼ばれた。

ヨシ!と覚悟をきめて診察室に入ると、温和な感じの50代くらいの医師が笑顔でオレを迎えた。

事前にとったレントゲン写真をみながら、医師は言った。
「とくに問題はなさそうですが、胃が荒れているのかもしれませんねぇ」

悪い結果でなくって良かったと安堵しつつ、オレは訊いた。
「仕事のストレスとかが影響しているんでしょうか?」

「まぁ、それもあるかもしれませんねぇ」と医者はうなずいて、次の質問を加えた。「暴飲暴食とかはしていませんか?」

激務のせいで、ゆっくり食事をたべたり、飲みに行ったりするほど暇がないので、暴飲暴食はしたくてもできないが、食事をする時間すら惜しんでいるので、オレはものすごい早食いのクセがある。
それがいけないのかと思って、医者にそのことを話した。

すると、医者は「それは胃に負担がかかるので、ゆっくり食べる習慣に改めた方がいいです」と答えた。

しかし、それが分かっていても、なかなかできない。
妻にもその悪習慣を指摘されることがあるのだが、何度トライしても、すぐに早食いのクセに征服されてしまうのだ。

その悩みを医者に打ち明け、「強力な解決策はないでしょうか?」とオレはすがるような思いで訊いた。

医者は困った表情を浮かべ、しばらく考えた後、言った。
「グラタンとかどうですかねぇ?」

「は?」オレは意味が分からず、医者に説明を求めた。「なぜ、ですか?」

「いやなに、グラタンなら、熱すぎて、早食いをしたくてもできないんじゃないかと思いまして…」


ブルースリーに似た男

オレは休日には、近場の温泉にいくことを習慣にしている。

ここの温泉の効能はたかく、露天風呂に於いては、絶景が眺められるので、心身共に癒やされる。
雪の降る寒い季節でも、かなり熱めのお湯なので、露天風呂でも苦にならない。

こんな感じで、10年近くこの温泉に通っているので、常連の仲間が増え、彼らとの会話もここにくる楽しみになっているのだ。

今日も贅沢に午前中から温泉につかっていると、初めて見る顔の男が入ってきた。

男からみても惚れ惚れとする肉体美の持ち主で、細身の逆三角形の上半身は、腹筋をはじめとして筋肉の隆起がすごく、ただ者ではないオーラを放っている。

30歳前後とみたが、顔も体にまけないくらい彫りが深く、なかなかのイケメンだ。

失礼に当たらないよう横目でチラチラ見ていると、となりで湯につかっている温泉仲間も彼に目を奪われたらしく、オレにこう話しかけてきた。
「おい、スゴイ体だ。まるでブルースリーだ」

「おお、そうだ。そういえば、よく似ている」とオレも同意した。

そんな俺らの視線などスルーするように、平常心をたもった静かな顔つきのまま、彼は俺らのつかる露天風呂のほうに近づいてくる。

近くで見ると、体のところどころに青あざがや生々しいキズがある。
彼は武術家なのだろうか…。
このキズを癒やすために、効能がたかいと有名なこの温泉の情報を仕入れ、ここに訪れたのかもしれない。

俺らは彼のオーラに圧倒されて、会話も忘れ、ただその動向を見守った。

彼は湯船の前に立つと、一呼吸置いて、湯船に右足をいれかけた。

その直後だった。
「アチョー!!」と絶叫して、彼は反射的に湯船に入れた右足を引きあげた。

生傷のあるその右足に、この熱湯のような温泉がよほどしみたようだ。


トラブルメーカー

今度、東京からきた教師が気にいらない。
俺らを田舎者だと思って馬鹿にしている。

まず、最初からなっていない。
いきなりでかい態度で教室に入ってきたと思ったら、巻き舌で講義を始めやがった。
こっちは呆気にとられて、さっぱり講義の内容が頭に入ってこない。

だから、オレは勇気を出して、もっとゆっくり話してくれと依頼すると、あいつは「わからなければ、わかるまでまっているがいい」と、とんでもない返答をしやがった。
こんな自己中なヤツにはついていけない。
みんなも同じ印象をもったようだ。

それなら、こっちもこっちでつきあい方をかえてやる。

まずは手始めに、超むずかしい幾何学の問題を選んで、ヤツにこの問題の解き方を教えてほしいと訊きにいった。
すると、ヤツは冷や汗を流しながら、「なんだかわからない、このつぎ教えてやる」と答えた。
ざまあみろだ。
俺らは愉快になって罵声をあびせると、「できないものをできないというのに、ふしぎがあるものか」と開き直りやがった。

こんなダメ教師のくせして、ヤツは大食いだ。
社会性もなく、公共の場である温泉で泳いだりもする。

俺らはますますヤツが嫌いになり、いろいろいたずらをしてやった。
俺らはそんないたずらをした覚えはないと白を切ったら、ヤツは相当頭にきたようで「つらでもあらって議論にこい」ときた。
そんなのに従うものか。
誰もつらをあらいにいかなかった。

こんな調子だから、ヤツは教師からも嫌われているらしい。
ヤツも嫌っているようだ。

しかし事態は急変した。
俺らが他校の生徒とけんかをしていると、ヤツが飛び込んできて最初は制止を呼びかけたが、俺らがきかないものだら、キレてけんかに加わり始めた。

これがヤツの致命傷になった。
新聞沙汰になって、ヤツは学校にいられなくなった。

しかし、最後まで問題教師だった。
自分がこういう立場に追い込まれたのは教頭のせいだと逆恨みして、教頭に暴行をしてこの地を去っていった。

まったくかわいそうなもんだ。
赤シャツ教頭も。


何かが足りない

仕事が終わり、春の陽気を感じながら、家路に向かう。
今晩は雲一つなく、幾多の星がきれいに輝いていた。

明日は休みだし、気分は爽快だ。

心にゆとりが生まれ、夜空を仰ぎながら、大きく息を吸った。
仕事の疲れが溶けていくように、癒やされる。

この一瞬が、一週間で一番の楽しみだ。
それをじっくり味わいたくって、しばらく夜空を眺める。

だが、何かが足りないことに気がついた。
とても、重要な何かが…。

どうしたわけか、こんなに空が澄んでいるのに、どこを探しても月が見当たらないのだ。

夜業から拓かれた世界一

昨晩、興味深いテレビドラマを観ました。

その番組とは『LEADERS リーダーズ 』
TBSで夜9時から二夜連続で放送されている番組です。

番組の内容は、第二次世界大戦前後、日本人による自動車をつくって、復興の牽引役になろうとした自動車会社の話です。
番組内では、この自動車会社の名前は「アイチ自動車」となっていますが、「トヨタ自動車」の史実をもとにつくられているそうです。

これを観ると、トヨタが世界一になるまでの道のりは、決して平坦でなく、度重なるピンチに襲われながらも、不撓不屈の精神で乗り越えてきたことがよくわかります。

まず、驚いたのは、初めての国産車をつくろうとし始めた頃。
初代社長の息子を演じる愛知佐一郎役の佐藤浩市氏は、それを道楽と嫌う橋爪功氏が演じる社長の石山又造にかくれて、彼の情熱にひかれる仲間とともに、仕事が終わった後、自動車づくりをはじめたということです。

当然、残業代も出ず、夜遅くまでやるわけですから、それは容易なことではありません。
お金だってない。まさしく無謀な冒険です。

しかし5年の歳月をかけて、ようやく試作車第一号を完成させることに成功したのです。

これを観ると、ないないづくしを理由に夢をあきらめないことの大切さを思い知らされます。
少しづつでも、種をまき、根気よく育て続けることから、夢は実現されるという、素晴らしい手本だと思いました。

今晩も、後編が放送されますので、よかったらご覧下さい。


老婆の訓示

徳川家康の遺訓に「人の一生は、重荷を背負うて遠き道を行くが如し」というのがあるが、オレは重荷を背負い続けて生きることに疲れ、三連休のときを利用して一人旅に出た。

旅先のあてはない。
ただ、都会の喧噪からのがれ、気の向くまま、のんびりと時間が流れる田舎にでも行ってみようと考えているだけだ。

一刻も早く都会から離れたいと新幹線に飛び乗り、それから先は鈍行を乗り継ぎ、ついには無人の寂れた田舎の駅にたどり着いた。

見事なほどに、周囲にはなにもない。
山間に畑が広がり、古い民家がちょこちょこあるだけの、いわゆる過疎地だ。

ここに降りたはいいが、宿もなさそうだ。
コンビニすらなく、どうやって一夜を明かそうか…。
オレは心細くなってきた。

重荷を背負うのに疲れたので、近所に散歩にいくような身軽な格好できた。
食料はおろか、着替えもない。
ここまできて、なんて無謀なことをしてしまったのかと、オレは後悔し始めた。

しかし、ここで引き返してもつまらない。
一日二日、不便な生活を送っても死ぬわけではないと開き直って、オレはつま先を駅の出口のほうに向けた。

すると、その先に行商のように大きな荷物を背負った80歳ぐらいの腰の曲がった老婆がいた。

荷物を背負うのに苦労しているようだったので、オレは手伝ってやった。

「兄ちゃん、あんがとな」と、老婆は深いしわの刻まれた顔をほころばせて感謝を述べた。

「いえいえ、とんでもない」とオレは答え、どこまでその老体でこんなに重い荷物を背負っていくのか心配になって訊いた。「家は近いんですか?」

「家かい?」老婆は聞き返すと、山のふもとの一軒家を指さした。「あそこだよ」

「えっ、あんな遠いところまで、この荷物を背負っていくんですか?」

「そうだよ」
老婆は平然と答えた。

「大丈夫ですか?」
オレは、何ならかわって荷物を背負ってやる覚悟で訊いた。

すると、老婆は「大丈夫。慣れているから」と答え、二、三歩あるいてみせると、よっこらしょと荷物を降ろして笑った。「疲れたら、こうやって荷物を降ろせばいいんだもの。そんなことを繰り返していれば、知らぬ間に家に着いちゃうよ」

オレは、その何気ない言葉に、ハッと気づかされた。

四六時中、ずっと重い荷物を背負うような不器用な生活を続けてきたから、オレは無駄に疲れてきたのだと…。

そんな当たり前のことが気がつかなかったのかと思うと、オレの背中からふっと重荷がおりたような気がした。

駆け込み読書

いよいよ増税間近、駆け込み需要ということで、買いだめをしていらっしゃる方も多いことと思います。

ボクもそんなムードにつられて、買いだめというより、今からできるだけ無駄遣いは減らすようにとケチケチ作戦を始めたところです(なんのこっちゃ)。

で、その作戦の選別で筆頭にあげたのが、「BOOK」。つまり「本」です。

ボクは休日といえば、近所の「TSUTAYA」に行くのを常としており、ほぼ毎回、気軽に本を購入しています。

でも、買っても読み切る本は少なく、部屋は積ん読の山であふれています。

これは、無駄以外の何者ではないと反省し、これからはよく吟味して購入する本を選ばなければなるまいと、節約スイッチをONにしたという次第です。

ということで、昨日からさっそく「吟味作戦」を実行しました。

すると、本当に欲しい本とそうでない本の選別に苦戦して、結局、何も買えなくなってしまうんですよね(つまり、みんなグレーゾーンに入ってしまうわけです)。

結局、手ぶらで「TSUTAYA」を出ました(それって、要するに立ち読みじゃん。すみません。「TSUTAYA」さん)。

でも、それで気づいたことがあります。

それは、こういう追い込まれた「立ち読み」のほうが、読書量が増えるということです。

小説は難しいですが、ノウハウ本などは、強調したい部分が太字で書かれていたり、章ごとにポイントをまとめてあるページがあったりするので、けっこう速読できるんですよね。

そういう親切が、「立ち読み」には非常に助かるわけです。

昨日は「TSUTAYA」での滞在時間は1時間程度でしたが、その間に、その技を使って、4,5冊は流し読みできてしまいました。

これは、積ん読よりも圧倒的に読書量が増えるというわけで、これからは「駆け込み読書」の習慣を心がけたいと思います(それって、ただの悪い客じゃないか!)。

八方ふさがりなの

「お兄ちゃん、私どうしたらいいのかしら…」
ボクが自室で勉強していると、二歳年下の中学二年の妹が憔悴しきった感じで入ってきた。

「どうしたんだ?」
ボクが訊くと、妹はボクのベッドの上に疲れたように腰をおろして言った。
「私、八方ふさがりになっちゃった…」

「えっ、なんで」

「いま、私のクラス大変でさぁ…」
妹は深いため息をついて、うなだれた。

「どう大変なんだ?」
ボクは生気を失った妹の顔をのぞき込んだ。

「派閥ができちゃってさ、なんか険悪な感じになっちゃったの…」
妹はそういうと、涙をにじませた。

「そうか。それは大変だね」ボクは妹の隣に腰をおろし、慰めるように妹の背中をさすった。「で、お前はどちらかの派閥に入っているのか?」

「ううん」と妹は力なく首をふった。「どの派閥にも入っていない…」

「どうして?」

「だって、どこかの派閥に入れば、別の派閥の友達に嫌われることになるでしょ」

「そりゃそうだ」

「私みんなに嫌われたくなくって、みんなにいい顔していたら、態度のはっきりしないヤツだって、逆に孤立しちゃったの…」妹は涙声でそう言うと、こらえきれなくなったのか、ついに泣き始めた。「私もう、どうしたらいいのかわからない…」

「そうか、それはつらいな…」
ボクはそれ以上、何も言えず、ただいつまでも妹の背中をさすり続けた。

ただし、何も言えなかったのは、答えがわからなかったからではない。
なんで妹がこんな立場になったのかはわかっていたが、それを言っても妹が救われないと思ったからだ。
だって、まさか「お前が八方ふさがりになったのは、お前が八方美人な態度をとっていたからだよ」なんて言えやしない。

弱者の武器

ボクは小学三年生。

今日は、学校が終わったあと、友達のケン君と近所の公園に遊びにいきました。

公園には、いろんな遊具があります。
ブランコや、鉄棒、ジャングルジム、すべり台など、その他いろいろ。あっ、砂場もあったっけ。
とにかくたくさんあって、楽しくて、ここで遊んでいれば、あっという間に時間がたってしまいます。

そのなかで、ボクが一番好きなのはブランコ。
どこまで高くあがれるか、毎日挑戦しているんだ。

でも、ケン君は臆病で、ボクのようなマネはできません。
それどころか、ボクがやっているのを見ているだけで震えあがって、「危ないから、やめなよ」と言う始末。
そうなるとボクはますます愉快になって、もっともっと高くけりあげてみせます。

今日も、そんなことをやってみせました。
ケン君は、いつものようにボクに注意を呼びかけましたが、ボクがきかないので、ついに「とても怖くて見ていられないよ」と言って、砂場のほうにいってしまいました。

でも、ボクはかまわず、高あがりの挑戦をつづけます。
空にのぼりあがっていくようで、とても気持ちが良くって、ボクは空ばかりを見あげていました。

そんな時でした。
遠くで、ケン君の叫び声がしました。

驚いて、空からケン君のいる砂場のほうに目をうつすと、ケン君は近所で有名な悪ガキにからまれていました。
その悪ガキはケン君が弱虫と知っているので、よくケン君をいじめるのです。

ボクは助けにいかねばと思い、激しく揺れるブランコを静めているうちに、ケン君は悪ガキにいっぱつなぐられ、気を失ったように砂場に倒れてしまいました。

ケン君がそのまま動かないので、さすがに悪ガキも怖くなってしまったのか、逃げるように公園から去っていきました。

ボクはとても心配になってケン君のもとに駆けよると、「大丈夫?」と言って、ケン君の体をゆすりました。

すると、ケン君は薄目を開け、まるで何事もなかったかのように、起きあがったのです。

「良かった。死んじゃったんじゃないかと思って、心配しちゃったよ」とボクはホッと胸をなでおろしました。

「ゴメンネ、心配かけて」とケン君はボクにあやまりながら、なぐられた右の頬をさすりました。「でも、いたかった」

その様子を見ながら、「気を失うぐらい、やられたんだ」とボクがきくと、ケン君は否定するように首を左右にふりました。

そして、こう言ったのです。「死んだふりをしただけさ」

「死んだふり?」

「そうだよ」とケン君は答えると、足下にいるテントウムシをつまみあげ、そいつをツンツンつつきました。「ホラ、こいつもこうすると、死んだふりをするだろ。これとおなじ事をしただけだよ」

「なんだ、そうか」と言って、ボクはおかしくなって笑ってしまいました。

ケン君も気弱そうに笑いながら、「死んだふりなんて、恥ずかしいと思う?」とボクにきいてきました。

ボクは首をふり、「そんなことないよ。馬鹿なけんかを買わないための、生きる知恵だもの」と答えました。

川の人

ボクは、河原のウォーキングコースの散歩を日課にしている。
5年ほど前、護岸工事のついでに雑草だらけの土手が整備され、ウォーキングに最適な道路がつくられたからだ。

今日も春の陽気に誘われ、いつもの午前10時に散歩にでかけた。
坂道をあがり、河原のウォーキングコースを見下ろすと、ボクのように散歩を目的にここに訪れている人の姿が5人ほどいる。

彼らも同じ時刻に散歩にでかけるのを習慣にしているらしく、同じ顔ぶれだ。

といっても、すれ違っても会釈をするぐらいで、親しく会話をすることはない。
誰も彼も、立ち話で時間をつぶすよりも、健康増進のためにウォーキングに集中しているようだからだ。

そのなかで、それを目的にしていないような人物が一人だけいる。
初老の男性で、いつもウォーキングコースの途中に置かれた椅子に腰掛け、瞑想をするように姿勢を伸ばし静かに川を見つめているのだ。

それも、けっこうな時間だ。
ウォーキングコースを折り返せば1時間程度かかるのだが、それでもまだ彫刻のように姿勢を崩さずそこにいる。

彼はウォーキング目的でなく、なぜ毎日ここにきて、こんなことをしているのか。
気になって、今日思い切って話しかけてみた。

「春になって、川の景色を眺めるのも気持ちがいいですね」
彼の隣に腰をおろし、ボクがそう声をかけると、彼は笑顔でこちらを向き、こう答えた。
「私は川を眺めているのではありません」

「えっ!」とボクは驚き、聞き返した。「では何を眺めているのです」

「海です」
彼は川に視線を戻して言った。

「海?」
ボクはさらに驚いた。

「そうです」と彼は笑顔で頷いた。「私の故郷は海岸端にありましてね。故郷が恋しくなる度にここに来て、この川を海だと想像し、心を癒やしているんです」


待ちくたびれた午前

今日の午前中は、とてもくたびれました。
休日の土曜の清々しい晴天の朝。本当なら、一週間で最も気分よく過ごせるものです。

ところが、ふいに仕事上の心配事に襲われ、朝食を食べ終わると、大急ぎで会社に直行。
事態を確認し、なんとかギリギリセーフかと少し安堵し、帰宅しました。

それから今度は、先日に投稿しました携帯の問題解決に奔走。
結局、充電できず機種交換するしかないと決断し、近くのショップへ向かったのでした。

ショップに入った時刻は、10時15分くらい。
受付窓口は三席あり、すでに全席埋まっていました。
その他、2組ほど順番を待っており、ボクが引いた番号札は6番目でした。

こんなに早い時間から、これほど混んでいるとは予想していませんでしたが、まぁ、一人あたり15分程度で、11時前には機種交換を済ませられるだろうと、たかをくくっていました。

ところがところが、その三組とも、11時半を過ぎても手続きが終わりません。
何でそんなに時間がかかるのかと、仕事の心配事も忘れるほどジリジリしてきました。

なのに彼らは、待たされる人間の気持ちも考えず、スタッフとのんびり話し込んでいるのです。

そのなかで、特に気になったのは、70歳くらいの老夫婦。
おじいさんは、長靴をはいており、恐らく農家の方だと思われます。

で、その老夫婦の様子を見ていると、購入するガラケーの使い方が飲み込めず、何度も同じような質問をして、スタッフを困らせているようでした。

話を聴いていると、そのスタッフも、老人には理解しがたい横文字を多用し、彼らを混乱させているみたいです。

そのうち、カメラの使い方をめぐりパニックになり、夫婦げんかが始まる始末。
これでは、午前中には用事は済まないぞとグッタリし、「同病相哀れむ」ではありませんが、ボクの前の方と「あんな感じじゃ、日が暮れちゃいますね」と慰め合いました。

で、その老夫婦の手続きが終わったのは、正午ごろ。
やれやれと思ったら、スタッフは次の人の番号も呼ばずに、大慌てで外に出ようとした老夫婦を呼び止めました。
どうも、クルマの鍵を席に置き忘れていたようです。

こんなに忘れっぽく、機械音痴な老夫婦に携帯を使いこなせるのかと、ちょっと心配になり、駐車場からでてくる彼らのクルマを見たら、な、なんとプリウス。
なんだ、けっこう進んでいるじゃないかと、そのギャップにあ然としました。

ちなみに、ボクの手続きにかかった時間は15分程度。最初から機種とプランの変更内容を決めて行きましたので、早いものでした。

それにしても、なんで前の三組あんなに時間がかかったのだろう。

新たな相棒

先週の記事で、愛用していたオリンパス製のボイスレコーダーが壊れた話を書きましたが、昨日、思い切って新たな相棒を購入しました。

新たな相棒は、ソニー製のボイスレコーダーです。

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値段は、7440円。オリンパス製のボイスレコーダーが確か11,000円ぐらいだったので、お買い得に感じられ購入することにしたのです。
それに、3/9までの特価という宣伝文句にもつられてしまったんですよね。
消費税もあがりますし、買うなら「今でしょう」となってしまったわけです。

それにしても、ボイスレコーダーもFMラジオつきになると、それなしのものに比べ倍の値段になってしまうんですよね。
でもボクは、ラジオを聴きながらウォーキングをするのを趣味にしてるので、FMラジオがついていないボイスレコーダーでは、醤油をつけないで食べる刺身のように、ひどく味気ないものになってしまうのです。

実のところ、FMラジオをきけるウォークマンをもっていましたので、散歩の途中で思いついたアイデアは、メモで済ませばいいかとも考えていたのですが、やっぱりちょっとイヤなんですよね。
街中でペンとメモ帳を取り出し、コソコソとメモるのを誰かに見られるのが…。
つまり、怪しい人に見られるんじゃないかと恐れてしまうわけです。

かといって、それを嫌い、アイデアを忘れないように頭の中で反芻しながらウォーキングするのも、せっかく得ようとしているリラックス感を奪われてしまうことになります。

だったら、靴の中に小石が入ったような不快感を抱えてウォーキングを続けるより、早いうちにそれから解放された方がマシだと決断したわけです。

というわけで、昨日、さっそく新たな相棒とウォーキングに出かけました。
使い勝手は、オリンパス製のほうがシンプルで優れていましたが、音質はさすがはソニー。クリアで「いいんです」。

お陰で、天気も良かったので、気持ちよくウォーキングできました。

だんだん陽気も良くなりますしね。
いい買い物をしたと思いました。

今度はこれか

先週の記事で、愛用していたボイスレコーダーがダメになったことを書きましたが、今度は長年愛用してきたガラケーの調子が怪しくなってきました。

それに気がついたのは昨晩のこと。毎週金曜日にガラケーの充電をするのを習慣にしているのですが、充電時に点灯する赤いライトがつかなくなってしまったのです。
このライトは満充電になると消えるのですが、満充電の状態でないのに、な、なんと、その赤いライトがつかないのです。

花の金曜日のリラックス感も、一気にガックリ感に暗転してしまいました。なんてことだ!

思い起こせば、このガラケー。まだソフトバンクがボーダフォンのころの年代物。携帯でワンセグが見られるようになったということで、飛びついて購入したものでした(というものの、ほとんどワンセグを視聴することはなかったのですが)。

購入して、7、8年は経っていると思いますが、この相棒との出会い、ついこの間の出来事のように思い出されます。ううっ

恐らく、赤いライトの寿命が切れただけだと思いますが、何か別の要因でトラブルが起きているとすると、買い換えを急ぐべきかどうか迷います。

でも、スマホは維持費が高くて、躊躇するんですよね。充電を頻繁にしなければならない手間も増えますし…。
基本、仕事で忙しくて、スマホでネットを見る暇もないので、ボクの場合ガラケーで充分なんです。

だったら、ガラケーを購入すればいいんじゃないかという考えもありますが、今時、ガラケーのご購入ですかと販売員に馬鹿にされるような気がして、ちょっと気が重くなります。

しばらく様子をみながら使い続けようと思いますが、まだまだ現役で頑張ってもらいたいものです。

っていうか、スマホの維持費、もっと安くしてくれ~。

高所恐怖症

「君はすごいね」と耳の長い男の子は言いました。

「なんで?」とチビの男の子はききます。

「だって、高いところ平気だろ。ボクなんて、高所恐怖症でとても無理」と耳の長い男の子は答えます。

「へぇ~。そうなんだ。ボクは、高いところのほうがずっと安心するけどな」と言って、チビの男の子は近くにあった木に登ってみせました。そして、高い枝の上から耳の長い男の子に呼びかけました。「ほら、君も登ってみなよ。やってみれば、どうってことないよ」

「無理、無理。できっこないよ」と耳の長い男の子は、下で鼻をピクピク震わせながら答えます。

チビの男の子は軽快に木から下りてくると、「やってみれば、楽しいのに」と残念そうに言いました。

耳の長い男の子は申し訳なさそうな表情を浮かべ、「君は強いんだね」と感心します。

しかし、チビの男の子は大きく首をふり、「そんなことないよ」と否定しました。

と、その時でした。

耳の長い男の子は何か異変を聞き取ったのか、耳をビクッとたてると、「リス君にげろ。ワシがきたぞ」と大声で叫んで、近くの岩陰に身を隠しました。

「エッ、本当!」チビの男の子は大慌てで木に登りあがり、住まいの狭い穴に逃げ込むと、ブルブルと身を震わせながらつぶやきました。「ウサギ君。ボクは強いんじゃなくって、こうしなくっちゃ身を守れないんだよ」

さらば相棒

相棒が突然壊れてしまいました。

相棒とは、オリンパス製のボイスレコーダーです。

ボイスレコーダー

このボイスレコーダー、ウォーキングをするときラジオを聴いたり、アイデアをメモ代わりに録音したり、とても重宝していました。

相棒の悲劇に気がついたのは、今朝のことです。
外に行く用事があり、いつものように連れて行こうと、電源を入れてみましたら、ウンともスンともいわなくなってしまったのです。

バッテリーが切れたのかと思い、パソコンにつないで充電しても、回復せず。
ならば、充電式の単四電池がダメになったのかと思い、新しい電池を買ってきて入れ替えてみましたが、それでも蘇生しませんでした。

記憶は定かではありませんが、確か購入から2年程度しか経っていないと思います。
休みの日にしか使わないので、そんなに使用頻度も高くありません。

なのに、もうダメになってしまうなんて、早すぎるじゃないかぁ~。立て、立つんだ、ジョー!

ま、こういうこともあるさと気持ちを切り替え、新しい相棒を探すしかないのでしょうね。

今までありがとう、相棒よ。

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マウントエレファント

Author:マウントエレファント
アルパカとバラとスプリング、つまり春(おまえはルー大柴か)を愛するナイスミドル?なサラリーマンです。でも同僚には、そんな趣味、ばらしません。キモイっていわれますから。残念!(古っ!)

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