ブラック企業の明るい昼食

「なんだ、なんだ、みんな暗い顔で昼飯を食っているな。これじゃ、まるで葬式の食事じゃないか」
めったに、我々が昼飯をとる部屋に訪れることのない社長が、いきなり入ってきて、そんなことを言った。

「ほら、もっと明るい笑顔をみせなさい。昼食は楽しく食べるものですよ」
陰で社長の「金魚の糞」と揶揄されている専務が、社長の肩越しに顔を出し、手本を示すように笑顔を作ってみせる。

しかし、誰も笑顔で返せない。
こんな安月給で人をこきつかうブラック企業で働いていて、笑顔なんてつくれるはずがないからだ。

「困るな。そんなことじゃ」と専務は怒りはじめる。「サラリーマンの昼飯の光景を放送しているテレビ局からオファーがあって、来週の火曜日に撮影があるんだ。その時、そんな暗い顔をしていられたんじゃ、うちの会社の印象が悪くなってしまうじゃないか」

その番組なら、見たことがある。
その番組に登場するサラリーマンたちは、どの顔も仕事にやりがいを感じているようで輝いていた。
彼らを観ながら、自分たちとはかけ離れた世界に住んでいる人もいるものだと、いつも羨ましく思っていた。

まさか、その番組にでることになるとは…。
北向きの暗い部屋が、ざわつきだした。

「とにかく、笑顔の訓練をするように。これから毎日チェックに来るからね」と専務は厳しい口調で言う。

それでも命令に従わない我々に、豊臣秀吉を信奉する社長は、睥睨するような視線を送りながら、「ま、鳴かぬなら鳴かせてみせようホトトギスだ」と、いつもの口癖を吐いた。

そしてついに撮影の日が訪れた。

今日は、会社が特別メニューを用意してくれた。
分厚いステーキに、キノコのソテーがのった、豪勢なものだ。

フン、見栄をはりやがって、と思って食べていると、所々から笑い声が聞こえてきた。
どうしたのかと思っているうちに、自分も笑いがとまらなくなった。

と、その時、社長と専務の案内で撮影隊が入ってきた。

「賑やかなお昼ですねぇ」と、デイレクターらしき人物が言った。「それに、社食も豪華だ。こんな企業、見たことないですよ。こんな会社で働ける人は幸せですねぇ」

「まぁ、そうですかねぇ」
例のごとく社長の後ろにくっついている専務が手を揉みながら答える。

「社員のみなさんには、いつも頑張ってもらっているんでねぇ。体力をつけてもらうために、たまにこういう食事を出すんですよ」社長は大笑いしている社員の近くに寄って、白々しい笑顔で肩をたたく。「どうかね、そのキノコ。おいしいだろ」

もしかして、これって、笑い茸…。

笑いが止まらぬカラダの奥から、社長の「鳴かぬなら鳴かせてみせようホトトギス」の文句が木霊した。

スポンサーサイト

第六十四話 ただならぬ気配

★初めての方はこちらから★

暗闇のなか、突如として現れたギースらしきシルエットを見て仰天したケンシロウは、腰を抜かして、その拍子に我慢していた小便をもらしてしまいました。

すると、その物音に敏感に反応したかのように、そよ風の寝室のドアが開きました。

「ど、どうしたんですか?」と、ケンシロウの背後からそよ風の声がします。

「ギ、ギース…」
ケンシロウは震える人差し指を、ギースらしきシルエットに向けます。

「えっ!」
そよ風も、角のように尖った耳のシルエットにただならぬ気配を感じたのか、驚愕の声をあげます。

「だ、誰ですか、アナタは?」
そよ風は震える声で、ギースらしきシルエットに問いかけます。

しかし、彼からは返答がありません。
モジモジと長い首が動くだけで、どう対応したらよいのかわからず、戸惑っている様子です。

第六十四話+のコピー_convert_20140510172625

その時でした。
トイレの内側から、トントンとドアをたたく音がしました。

前へ

次へ

★あらすじ★

器の価値

二十歳のころに日本を飛び出して、アメリカに移り住み、かれこれ二十五年が過ぎた。
夢に向かって無我夢中で働き、なんとか成功を手にすることができた。

夢を叶えるまでは、日本には帰らないと決めていたが、ようやく故郷に錦を飾れそうだ。
といって、華々しい出迎えが待っているわけではない。
ただの自己満足かもしれないが、自分で自分を褒めてやりたいと思える成果をあげられたというだけのことだ。

両親はすでに他界しているし、親戚とも疎遠にしているので、故郷に帰っても待っていてくれる人はいない。
しかし、恩を受けた幼なじみの家があった。
そこにお礼に行きたいと思い、帰国を決めたのだ。

幼なじみの家は、地元では名家である。
私は古里の駅におりたつと、すぐにタクシーを使って、幼なじみの家に向かった。

幼なじみの家は昔ながらの佇まいで、周囲に林立する新興住宅地に埋もれるように残っていた。
私は、瓦屋根ののった大きな門をくぐり、懐かしい香りのする敷地内に入る。

しかし、庭は荒れ放題で、古い家屋の所々は壊れ、修復もされていなかった。
人が住んでいるのかと疑うくらいだ。

恐る恐る玄関のチャイムを押すと、しばらくして貧乏神のようにしけた顔つきの男が現れた。
その男は私を見ると、「よう。政夫じゃないか。久しぶり」としゃがれた声をあげた。

信じられなかった。
彼が、幼なじみの健二だったとは…。

あまりの動揺で声を失っている私に、健二は「あがれ、あがれ」と手招きし、私を庭園のよく見える日本間に連れて行った。

この日本間に飾られた掛け軸のお陰で、私は頑張ることができたのだ。

私の家は貧乏だった。
両親は病気がちで、ろくに働けない。
その両親を支える兄弟もおらず、幼い私は将来を悲観していた。

しかし、折れそうになる度に、この日本間に飾られていた掛け軸の言葉「器の価値は、器そのものより、その活かし方にあり」に励まされ、今日まで頑張ることができたのだ。

なんでもその掛け軸は、ある戦国武将によって書かれたものだという。
子どもの頃、その掛け軸をじっと見つめていると、幼なじみの祖父が自慢したものだ。

しかし日本間には、もうあの掛け軸はなかった。
「どこか、他の部屋に飾ってあるのか?」と訊くと、幼なじみは「とっくに、あんなの売ってしまったよ」と、つまんなそうに答えた。

「高く売れたのか?」と訊くと、「いいや」と幼なじみは首をふる。
そして彼は、「じいさんは自慢していたが、あれは真筆ではなかった。あの文句は、その武将の名言に間違いはないそうだが」と、掛け軸がかかっていた床の間のあたりに白けた視線を送ってから、「あんな掛け軸なんの役にも立たない、ガラクタだよ」と吐き捨てるように言った。

あの掛け軸が真筆でなかったと知っても、私はショックを受けなかった。
その掛け軸の言葉のとおり、「器の価値は、器そのものより、その活かし方にあり」ということを、経験で学ばさせてもらえたからだ。

それをガラクタとしか思えず、落ちぶれた名家の屋根に、ポツポツと音を立てて、夕立が降り始めた。

命取りの機械化

「人件費を削るために、これから機械化をどんどん進めようと思う」
社長は、社長室に呼んだ副社長に言った。

「ということは、大規模なリストラを行うということですか?」
副社長は動揺で震える声で尋ねる。

「ま、そういうことになるな」社長は厳しい表情で、壁に貼られた業績表を見てため息をつく。「これを見たまえ。消費税があがってから、業績は急落している。少々高くても、いいものをつくれば売れるという時代は終わったと認識せざるを得ない」

「それは、そうかもしれませんが…」会社の理念に心服している副社長は、はじめて社長に異を唱える。「それでは、我が社の良さが失われ、ますます客離れが進むのでは…」

「その可能性もあるかもしれんが、今のままでは会社は存続していけんのだよ!」社長は、副社長の青臭い反論を吹き飛ばすように語気を荒げる。「機械化すれば、給料の安い派遣社員でも、求められる水準の商品を大量生産できるようになる。従って、まずリストラの対象になるのは、人件費の高い職人からだ」

「そ、そんな…」副社長は、信じられないといった表情で社長を見る。「彼らは、ウチの財産ですよ。それを手放せというのですか」

「そうだ」
社長は、シャッターを閉めるようにピシリと言い切る。

「では、商品名を変えるおつもりですか?」

「いいや。それはない」社長は平然とした表情で首をふる。「それをしたら、我が社の商品は見向きもされなくなる」

「でも、そんなことをしたら、お客様を裏切ることになります」副社長の顔は怒りで上気しはじめる。「我が社のウリは、プロの職人による手作りなんですよ。それが実はすべて機械による生産だと知れたら、それこそ我が社の命運は尽きてしまうでしょう」

しかし、社長は「そんなことはない」と胸を張って言う。「ロボットの手による生産だって、手作りにはかわりない」

迷惑な早口言葉

「おっ、牡蠣フライか、うまそうだな」ベテランアナウンサーの饒舌太郎は、隣のテーブルで大きな口を開けて牡蠣フライを頬張っているおばちゃんをチラリと見る。「オレ、あれ頼もう」

「先輩、生牡蠣もおいしそうですよ」
新米アナウンサーの滑舌悪男は、隣のテーブルにある大粒の生牡蠣が盛られた別皿をみて涎を垂らす。

「ホントだ」饒舌太郎は頷いたが、腕を組んでうなる。「でも、あたるとこわいから、やっぱ、オレ牡蠣フライ定食にする」

「じゃ、ボクも同じのにします」
滑舌悪男はそう言うと、店員を呼んで、牡蠣フライ定食をふたつ頼んだ。

店員が去ると、饒舌太郎は滑舌悪男にダメ出しをし始めた。
「オマエ、今日のニュースでも噛んだだろ。よくそんなんでアナウンサーになれたな」

「はぁ…」
滑舌悪男はシュンとしてうなだれる。

「新人だからって、いつまでも甘えが許されるわけじゃないぞ」饒舌太郎は容赦なく、滑舌悪男に厳しい言葉を浴びせる。「早口言葉の練習はしているのか?」

「まぁ、一応…」
滑舌悪男は後頭部をかきながら答える。

「まぁ、一応じゃねえよ。同期に負けているんだから、人の倍やれ!」饒舌太郎は、テーブルを割り箸でピシリとはたいて言う。「よし、いまから早口言葉の練習だ。まずは、生麦生米生卵って言ってみろ」

生麦生米生卵
滑舌悪男、なんとかクリア。

「よし、次は、赤パジャマ黄パジャマ茶パジャマ

赤パジャマ黄パジャマ茶パジャマ
これもなんとかクリア。滑舌悪男は、安堵の笑顔をみせる。

「バカ、よろこんでるんじゃねぇよ。こんなの初級だ。できて当たり前」と饒舌太郎は叱咤する。「じゃ、次は、隣の客はよく柿食う客だ

隣の客はよくきゃき食う客だ

「なんだ、きゃきって」饒舌太郎は舌打ちをする。「ダメ、もう一度!」

隣の客はよく柿食うきゃき

「また、きゃきって言っている。もう一度!」

隣のきゃきはよく柿食うきゃき

「なんだなんだ、ますます悪化しているじゃないか。こんど間違えたら、今日の昼飯代、ぜんぶオマエもち。いいな!」

「はい…」滑舌悪男は脂汗を流しながら、唇をなめて口角筋をほぐす。「じゃ、いきます。隣の客はよくか~き食う客だ!

「うるさい!」
いきなり、隣のおばちゃんがテーブルを叩いて怒鳴った。「ソレ、私への当てつけ? 金を払っているんだ。いくら牡蠣を食べたって、人の勝手じゃない!」

孫からのレター

ワシは今年で75になる。

趣味は切手集めだ。
中学の頃から切手を集めはじめ、お宝と呼べる珍品もいくつか所有している。

しかし、最近の若い者は、そういうものに関心を示さない。
電子メールでのやりとりが増え、切手を使う機会が減っているからだ。

その風潮は否応もなく、ワシをも飲み込み、遠くに住むかわいい孫からの便りも、ハガキではなく、電子メールである。

切手のないメールは、ひどく味気ないと返事を返すと、数日後、孫からある写真加工をほどこしたメールが届いた。

皆様方にしてみれば、他所の孫のメールの内容など関心ないだろうから、それを省いて、送られてきた写真加工だけお見せしたい。

じいちゃんへレター+のコピー_convert_20140525141027

孫も、気の利いたことをしよる。
メールには、今後もいろいろな写真加工した切手を添付したいと書かれてあった。

これで、新たな切手収集の楽しみが加わった。

自分の顔写真を切手加工したものをメールをつけて送るのは、友達や恋人などとの間でやっても、おもしろいのではないか?
ひょっとしたら、ちょっとした話題になるもしれん。
それで切手ブームが復活したら、うれしいものじゃ。

孫よ。
オマエには、商才があるかもしれんぞ。

そんな期待をしてしまう、親バカならぬ、爺バカでした。

ファンのお陰です

「錦野クンって、最高だわ。天才なのに、奢らず、ファンをとても大切にする好青年で」
天才テニス選手として世間を騒がせている錦野圭二のサイン会に並ぶ長蛇の列の最後尾のオバサンが言う。

ケッ、要はヤツがイケメンだからだろ。何がファンの皆さまのお陰ですだ。反吐が出るわ。
そのオバサンの後ろを通り過ぎる対戦相手の武藤剛は、そう毒づく。

武藤剛は、錦野圭二とは真逆で、無名に近いし、はっきり言って醜男である。おまけに、歳もくっている。

従って、彼のファンは、家族ぐらい。
いや、家族からも、いつまでも馬鹿な夢を追っていないで、早くまともな職についたほうがいいと口やかましく言われているのだ。

それが彼をひねくれされ、同時に並々ならぬ闘争心を生じさせている。
彼は、せめて錦野圭二に一勝するぐらいの偉業をなして、引退をしたいと考えている。

今日、ようやくそのチャンスが訪れた。
はじめて錦野圭二と対戦する機会に恵まれたのだ。

しかし錦野圭二は、彼との試合は、はじめから勝っていると思っているようだ。
だから、大切な試合の前に、こんな悠長に、サイン会なんか開いているのだ。

いまに見てろ!
武藤剛は、愛想を振りまいてサインの後にファンと握手を交わしている錦野圭二を、キッと細い目で睨んで、ロッカールームに向かう。

試合は、三時間後にはじまる。
その間、武藤剛は試験前の受験生のように、寸暇を惜しんで練習に励む。
一方の錦野圭二は、時間ギリギリまで緊張感なく、サイン会を続けていた。

そしてついに試合が始まった。
緑が眩しいテニスコートを囲む観客席を埋める観客のすべては、当然、錦野圭二のファンばかりだ。

先にコートにはいったのは武藤剛だったが、まるでコートを整備する職員が現れたかのように、観客席からは何の反応もない。

しかし、錦野圭二が現れると、地割れを起こすくらいの黄色い声援が湧きあがった。

武藤剛にとって、完全にアウェーである。
それが彼の闘争心を噴火させる起爆剤になった。

くそっ、絶対に勝つ!
武藤剛は、仁王のような形相で錦野圭二と対峙した。

奇跡が起きた。

なんと、武藤剛が錦野圭二に勝ったのだ。
それは、武藤剛以外の誰も予想するものではなかった。

観客席からは、落胆の声と、ブーイングが渦巻く。

インタビュアーも混乱したのか、勝利した武藤剛よりも先に錦野圭二にマイクを向ける。
「意外な結果でしたが、ベストコンディションではなかったのですか?」

その質問に対し、錦野圭二は苦しい表情で利き腕の右手首をさすりながら答える。
「どうも腱鞘炎を起こしたようで、ファンの皆さん、申し訳ありませんでした」

どうやら原因は、試合前のサイン会にあったようだ。
それは、三時間もぶっ通しで、色紙にサインをして、熱烈なファンからの手首がちぎれんばかりの激しい握手を受けていれば、そのような症状が起きてもおかしくない。

インタビュアーは錦野圭二に同情のコメントをよせると、おまけのように武藤剛にマイクを向けた。

インタビューに慣れない武藤剛は、インタビュアーからマイクを奪うと、雄叫びをあげるように言った。
「ファンの皆様のお陰です。ありがとうございました」


一歩づつ行こう

休日に習慣にしている午後の散歩に行って参りました。
昨晩は寒かったのに、今日はめっちゃ暑い。夏です。

ハナミズキにかわり、大好きなバラが通りを彩り、とてもいい季節ですね。

梅雨なんか来てほしくない!
このまま時間よ止まってくれ!
なんて、思いますが、農家の方々は雨不足で困っていらっしゃるんでしょうね。
四季があるから、おいしい野菜も食べられるのだと、違った視点から物事をとらえたいと思います。

そんな考えに浸りながら歩いていますと、靴紐がゆるくなってきました。
靴紐をきつく締めるために腰をかがめますと、花壇に近いコンクリートの上で、赤いダニのような虫がウヨウヨ動いているのが見えました。

気持ちが悪いと思いましたが、虫の立場にしてみたら、「進撃の巨人」どころではない、巨大な生物が自分たちを踏みつぶさんばかりの勢いで足をおろしてきたのですから、まさしく生命の危機、パニック状態に違いありません。

僕は彼らの一匹も踏み潰さないように注意しながら足をどけると、みんな生きるのに必死なんだなと思いながら、散歩を再開しました。

生きているといろいろ思い悩むことも多いですが、目的地に近づくには、生きる意味を複雑に考えるよりも、散歩のように余計なことを考えず、ただマイペースで一歩づつ進んでいくことが大切なのだと考えた一日でした。

忍びの者を見出す秘策

「忍びの者を捕らえたとは、真の話か?」
寝室に軍師寛平を呼んだ武将赤池義清が尋ねる。

軍師寛平は、正座をして床に頭がつくほどの礼をしてから答える。
「はっ、兵に紛れ込んだ敵方の忍びの者をひとり捕らえました。今その者を牢屋に入れております」

「うむ。でかした!」赤池義清は、右手にもった扇子で太ももを叩いて喜ぶ。「何千といる兵の顔をすべて把握できるものではないが、そのなかから忍びの者を速やかに見出すとは、天晴じゃ」

「はっ、忍びの者がいることに気がついたのは、畠山茂助という兵です。かの者から、夕餉の最中、その話を受けました」

「そうであるか。その者に褒美を与えてやれ」
赤池義清は扇子を軍師寛平に向けると、そう命じる。

「はっ、畏まりました」

「で、忍びの者に拷問をくわえよ」と赤池義清は言い、扇子を鞭のように何度も振ってみせる。「そして、逆に敵方の情報を聞きだすのじゃ」

「はっ、さっそく明朝より鞭打ちの刑を処し、益となる情報を吐かせたく存じます」

「うむ。期待しておるぞ」赤池義清は、興奮と激しい所作で汗ばんだ額を扇子で仰いで頷く。「それにしてもじゃ、いかようにして忍びの者を見出すことができたのじゃ?」

「ニンニクでございます」と軍師寛平は答える。

「ニンニクじゃと?」
赤池義清は首を傾げる。

「左様にございます」軍師寛平は深く頷く。「夕餉には、皆の者の膳に必ずニンニクを出しておりますが、兵たちとの申し合わせで、それを口にするなという話になってあります」

「ほう。それで」
赤池義清は身を乗り出して尋ねる。

すると、軍師寛平は失礼にあたらぬよう、口に手をあて、は〜ぁと息を吐いてみせる。
「ニンニクを食すると、独特な強い口臭が漂います。それが忍びの者を見出す、有力な手がかりになるのでございます」

たまには不満も

世の中いろいろあって、不満がたまる毎日を送られている方も多いのではないでしょうか。
政治にしろ、会社にしろ、ボクも不満を少なからず抱えています。

一般的に、不満を言うことは、あまりよろしいことではないと、受け取られています。

確かに、不満を漏らす方はストレスの発散になるでしょうが、聞かされる方はたまったものではありません。

ところが、歌人・斎藤茂吉の長男で精神科医である故・斉藤茂太氏は、著書『そんなに自分を叱りなさんな 心のモヤモヤ退治法89』(集英社文庫)でこんなことを言っています。

「『マイナス思考はいけない』というマイナス思考」という章で、プラス思考の人とつきあうと、疲れてしまうと書いています。
なぜなら、ポジティブ・シンキングの人の前で、うっかりマイナスなことを言ってしまうと、そういう考え方はいけないと注意されるからです。
具体的な例をあげれば、結婚式で忌み言葉を使ってはならない緊張感を強いられるようなものでしょうか。
そんな緊張感を強いられる会話なんて、ちっとも楽しくなく、かえってマイナスになってしまうと指摘しています。

そういえば、勝海舟も「不平不満も世の中を進歩させる一助」(『勝海舟の人生訓』童門冬二・永岡書店)だと言っています。
詳しく引用すると、「世の中に不足というものや、不平というものが始終絶えぬのは、いちがいに悪くもないよ。定見深睡ということわざがある。これは西洋の翻訳語だが、人間は、とかく今日の是は明日の非、明日の非は明後日の是というふうに、一時も休まず進歩すべきものだ。いやしくも、これでたくさんだという考えでも起こったら、それはいわゆる深睡で、進歩ということはたちまちとどまると戒めたのだ。実にこの通りで、世の中は平穏無事ばかりではいけない、少しは不平とか不正とか騒ぐもののある方がいいよ。これも世間進歩の一助だ」と語っています。

考えてみれば、明治維新の立役者の勝海舟や坂本龍馬、西郷隆盛なども、当時の体制に不満をもっていたから、あのような偉業を成し遂げることができたのです。

不満を言われることが誰にとって不都合だから、そんなことは言ってはいけないとされているのか、しっかり見定めることが重要なのかもしれませんね。

ありがたい客

「はい、ありがとうございます。寸法を測らせていただきました」
オーダーメードのスーツをつくる店を経営している白髪の上品な店主は、巻き尺をポッケにしまいながら言った。

「今度も、いいスーツを頼むよ」
常連客である30代前半の男性はそう言って、店主がすすめた椅子に腰掛ける。

「はい。青山様の体型にピッタリとフィットしたスーツをつくらせていただきます」店主は自信たっぷりにそう言うと、手をはたいて妻を呼ぶ。「お~い、コーヒーとケーキを頼むよ」

すると、店の奥から、「は~い」という愛想のよい返事が返ってきて、店主の妻は常連客の前に、彼好みの砂糖のたっぷり入ったコーヒーと、生クリームのたっぷりのったケーキを置く。

「いつもすみませんねぇ。タダで、こんなにおいしいものをごちそうになってしまって」
大の甘党の常連客は、唾のたまった大きな口を開け、さっそくケーキをほうばる。

「いえいえ、いつも高価なスーツを注文してくださっているのですから、このくらいさせていただかないと」店主は手を揉みながら、妻のほうをふり返る。「あっ、そうだ。ほら、お隣さんからいただいた、シュークリームもあっただろ。あれももってきなさい」

「はい」とそれに従い、店主の妻は再び奥に戻ると、シュークリームをもってくる。

「おお、これもおいしそうだ」
食欲の火がついた常連客は、シュークリームにもパクつく。

それから常連客は、店主に勧められるまま、饅頭などをたっぷり食べ、満悦した笑顔を浮かべて去っていった。

「いいお客さんだ」
常連客を見送った店主は、しみじみとした口調で言う。

しかし彼の妻は、「なにが、いい客よ」と不満をぶつける。「毎回毎回、タダで安くはないお菓子をたべさせて、あなたどういうつもり」

それに対し、店主は、「何を言っているんだ」と一喝し、「おいしいものをたべさせて、ぶくぶく太らせれば、すぐに服のサイズが合わなくなり、また新しいスーツを注文してもらえるんじゃないか」と腹の内を明かした。

どこまでやるんだ

ここだけだ、ほっと一息つけるのは…。
オレは、便座の上に腰掛け、心身を休める。

オレの勤める会社は一週間前から、労務費削減を徹底するために、各現場に監視カメラを設置し、各人の働きぶりを厳しくチェックするようになっている。

ただでさえ、ストレスフルな激務に耐えているのに、さらに働きにくい環境になってしまい、ほとほと疲れた。

人間の集中力の限界は、90分と言われているが、朝から晩まで監視し、休みにくい環境をつくることは、かえって仕事の能率を落とし、ミスを誘発しやしないだろうか…。

少なくとも、くたびれた中年男のオレは、この先、定年までやっていける自信がない。

だから、時々、トイレに行くふりをして、体を休ませるようにしているのだ。

しかし、翌日のことだった。

この監視業務をしている課の者がオレの働いている現場に来て、険しい顔つきでオレに手招きをした。

「なんですか?」
オレがビクビクして寄っていくと、彼は、「用が済んでいるのに、トイレの中にいる時間が長すぎますねぇ」と言った。

オレは仰天して、「まさか、トイレの中まで監視カメラを…」と言うと、彼はその点については言葉を濁して、「とにかく、厳しく監視していますので、気を抜かないように」と脅迫するようなドスのきいた声で言った。

ロング・グッドバイ

このあいだ、村上春樹訳の『ロング・グッドバイ』(ハヤカワ文庫)を購入し、毎晩少しづつ読んでいます。
この作品は、ハードボイルドの巨匠、レイモンド・チャンドラーの代表作として有名であり、つい最近、NHK総合でドラマ化もされました。

『ロング・グッドバイ』を読んだのは、今回が初めてではありません。
15年ほど前、別の人が翻訳したものを読みました。

その時は、それほど面白いと思いませんでした。
文章が不自然というか、読み手をひどく疲れさせる翻訳だったからです。
正直、我慢して読んだような記憶があります。

しかし、村上春樹訳の『ロング・グッドバイ』は、文句なくおもしろいです。
文章にリズムがあって、おしゃれで、ぐいぐい読めていけます。
前の翻訳者と比べてはもちろん、NHK総合でやったドラマと比べてみても、数倍おもしろいです。

ボクは、むかしけっこう村上春樹氏の作品を読んでいましたが、そのころの作品と比較すると、素人の分際で失礼な言い方になりますが、ハルキさんも作家として、ずいぶん成長したなぁと感心してしまいました。

それにしても、レイモンド・チャンドラーの人生は波瀾万丈だったようです。

大酒飲みの父親と離婚した母親につれられ、生まれ故郷のシカゴから英国に渡り、あまり豊かではない少年時代を送りました。

そのため、大学に進学する経済的余裕がなく、海軍省に入省しました。
しかし、事務仕事の退屈さに耐えかねて、6ヶ月で退職してしまいます。

それから、かねてから望んでいた文筆業で食べていこうとしましたが、うまくいかず、23歳の時、アメリカに戻りました。

そうはいっても、特別な技能をもっているわけではないので、ぱっとしない生活を送ることに。
それから、ほどなく始まった第一次世界大戦に従軍し、彼の率いる部隊の生存者が彼ひとりという激戦を経験します。

戦後は、石油関連の会社に勤務し、副社長の地位まで上がりましたが、仕事のストレスから酒におぼれ、女遊びもはじめ、その結果、職を失う羽目になってしまうのです。

作家を志したのは、会社を辞めた翌年の45歳のとき。
貯金が尽き、妻を養わなければならない切迫感から、安い原稿料で作家にすさまじい量の作品をかかせる安価なパルプマガジンに小説を掲載するようになります。

本格的な小説や詩を書きたかったチャンドラーにとって、それは不本意なものでしたが、その激務で急速に腕を上げ、ついにクノップフ社の社長に才能を見いだされることになるのです。

『ロング・グッドバイ』の主人公、私立探偵フィリップ・マーロウものの作品をかくのは、それからです。

『ロング・グッドバイ』は、死病にかかった最愛の妻の看護をしながら書かれたものだということを知ると、胸が打たれるものがあります。

文章を学ぶテキストとしても、愛読していきたいと思います。

はっきりしなさい

土曜日にお金を使いすぎて持ち金が少なくなってしまったので、翌日の日曜日に近所のコンビニにお金をおろしに行った。
ボクは内勤なので、平日はお金をおろしに行くことができないからだ。

コンビニに設置されたATMには、先客として、6歳ぐらいの男児をつれた父親がいた。

その後にボクは並んだのだが、半泣き気味の男児を父親が叱っていた。
聞き耳をたてるつもりはないのだが、けっこう大きな声で叱っているので、嫌でも内容が耳に入ってくる。

「男なら、はっきりしろ!」と父親は怒鳴った。「嫌ならば、嫌だとはっきり言うんだ。そういう曖昧な態度をとっているから、面倒なことを押しつけられて、後で泣く羽目になるんだ」

何が原因でそんな叱責を受けているのか飲み込めないが、父親が怒るほど、男児は泣きじゃくり、だだをこねて、父親にまとわりつく。
それが障害になって、父親はなかなかATMの手続きがはかどらない。

どうでもいいから、早くして欲しい! 
ボクはいら立ってきた。
しかし、彼らはまるでボクの存在を無視するかのように、ATMの前でグダグダやっている。

そんなはた迷惑なやりとりが3分ぐらい続いた後、「ええい。邪魔すんな!」と父親は強引に男児の手をふり払って、ようやくATMのタッチパネルをピピッと動かしはじめた。

すると、男児は「うそつき!」と叫んだ。

「何が、うそつきなんだ!」と父親が怒鳴り返す。

「だって」と男児は泣きながら反論する。「お父さん、いつも自分の金をおろすのに手数料払うの嫌だって言っているくせに、いま『105円手数料が かかります。よろしいでしょうか?』って訊かれて、『いいえ』っていうボタンを押さなかったじゃないか!」

恥ずかしい買い物

日曜の朝、TBSでやっている『応援!日本経済 がっちりマンデー!!』を観ていましたら、セブンイレブンの「金の食パン」をとりあげていましたので、最近、パンにはまっている私は、いてもたってもいられず、近所のセブンイレブンにそれを買いに行ってしまいました。

で、その金の食パンには、「さっくり」と「しっとり」がありまして、初めて食べる私は、どちらがいいのかわからないので、両方とも購入しました。
それと併せて、気になっていたサッポロビールからでた新商品の「ホワイトベルグ」も買い物籠にいれました。

それをもって、レジに行くと、レジのおばちゃんに言われてしまいました。
「テレビみましたね」と。

「はい、さっそく買いにきました」と正直に答えましたが、かなり恥ずかしかったです。

そのときの私の顔には、「さっくり」でも、「しっとり」でもなく、「じっとり」とした汗がにじんていました。

輝いていた苦い日々

R・カーソンが書いたベストセラー『小さなことにくよくよするな!』(サンマーク文庫)のなかに、「今日が人生最後の日だと思って暮らそう」という処世術がある。

健康なころは理解できていても、実践するまでには至らなかった処世術である。

しかし、今は違う。
私は末期がんに冒され、余命半年と宣告されたからだ。

医師は、私に手術を勧めたが、助かる見込みがないのなら、体を傷つけるだけだ。
放射線治療も、激しい副作用に襲われるだけ。
私には、それは貴重な余命時間を浪費するだけにしか思えなかった。
それになによりも、お金の無駄使いになる。
私は、すべての治療を拒否した。

私には、家族がいない。
だから老後において、頼りになるのはお金だけだった。
そのために、欲しいものも買わずに貯めた3000万の貯蓄がある。

余命半年と宣告された今、私の老後はその期間となった。
今が、その蓄えの使い時だ。

私は、いちばん欲しかったものを購入し、生きた証として長年の研究成果を自費出版することにした。

そうと決まれば、時間を無駄に使えない。
会社に辞表を提出し、残された時間をすべて自分のために使うことにした。

そして次の日、いちばん欲しかったポルシェ タルガトップを買いにいった。
納車までに時間がかかるだろうと予想されるので、いつまで体力があるかもしれぬ私は急ぐ必要があったのだ。

愛車を所有するのは、20年ぶりだ。
スーパーカーブームのころに幼少時代を送った私は、子どもの頃からクルマが大好きだった。
しかし、クルマを所有するにはお金がかかる。
クルマがなくても不便でない生活環境に恵まれている私にとって、クルマを購入することは道楽以外の何物でもなかった。

年金もどうなるかわからない老後を考えると、そんな金食い虫を飼う勇気はなかった。
そう思いながらも、何度も繰り返される衝動買いの欲望と闘ってきたのが、私の淋しい20年の歴史だ。

恋い焦がれたポルシェ タルガトップは、二ヶ月後に我が家にやってきた。
色は深紅のバラのようなレッドだ。

私の夢は、そのポルシェのルーフを全開にして、夕日の美しい海岸沿いを走ることだった。

天気の良い日を選んで、その夢を果たしにでかけた。

初夏の心地よい潮風を感じながら走るドライブは最高だった。

しかしポルシェの運転は、乗り慣れたセダンの運転とはまるで違い、とても疲れるものだった。
それは、ウォーキングとジョギングぐらいの差だ。
それがスポーツカーというものなんだろう。
私の体力が弱ってきているのも、影響しているのかもしれない。

一休みするために、ファミリーレストランに入った。
そのファミリーレストレランは、私が勤めていた職場と同じチェーン店だ。

振り返ってみれば、そこでの仕事は耐えがたかった。
苦行のような毎日に、何のために生きているのかわからなくなり、はやく定年の日がこないかと指を数えてばかりいた。

そんな私が、今日初めて客としてこのファミリーレストランに訪れている。
頼んだのは、アイスコーヒーとパンケーキだ。

水平線に沈む夕日がよく見える窓際の席で、良く教育された接客マナーの店員から運ばれたそれを食べる。

正直、病気になってから、こんなにおいしいものを食べたことはない。
レストランの居心地も最高だ。
自分も勤めていたので、その笑顔の裏に苦痛が隠されているとわかるが、店員たちの感じも良い。

この安らぎは、憧れのポルシェで海岸沿いを走るものを上回っていた。
味気ないと思っていたあの頃の輝きを、今はじめて知ることができた。

唯一の道

宇宙船ソニック号は、地球への帰還の途中、大きなトラブルに見舞われている。

二機積んだエンジンのうち、一機が故障したのだ。
そのトラブルは深刻なもので、優秀な整備士もお手上げの状態だ。

地球への帰還に要する期間は、一ヶ月くらいになる。
その間に、予備用として積んであるもう一機のエンジンにトラブルが生じれば、乗組員全員は暗黒の宇宙の藻屑となるに違いない。

「船長、どうしたらいいんでしょうか…」
不安に耐えきれなくなった乗組員の一人が声をあげた。

「大丈夫だ。絶対なんとかなる」
船長は、ハスキーボイスで断言する。

しかし、その乗組員の不安は静まらず、「でも、残る一機のエンジンにかなりの負担がかかります。一ヶ月の長旅に耐えられるかどうか…」と反論する。

彼の不安は乗組員全員に伝染したようで、船内はざわつき始める。

船長は、その雑音を打ち消すような大声で諭す。
「余計な心配をするな。無駄にエネルギーを消耗するだけだ。君たちの心身までも弱ってしまったら、本当にダメになってしまうぞ」

「それはそうなんでしょうが、でも…」
乗組員の弱音はまだ収まらない。

「壊れたものをくよくよ思い悩んでいたって仕方がないじゃないか」船長は、目の前に広がる暗黒の宇宙のなかでひときわ輝いでみえる星を指さして言う。「それよりも、光をみようじゃないか。絶望的な状況のなかでも、最後まで自分たちができることのみ集中する。それが我々がいまやるべき唯一の道だ」

イケメンに負けない父の意地

「こんばんわ」
犬の散歩をしている近所の主婦が声をかけてきた。

「あっ、どうも、こんばんわ。先日は、筍をいただき、ありがとうございました。とても美味しくいただきました」
折目正は笑顔で、深く薄毛の頭を垂れる。

銀行員というお固い職業につく彼は、家から一歩でると気を抜くことができない。
生真面目な性格であるのも、余計にそうさせるのかもしれない。

そのため、精神的疲労は並々ならぬものがある。
彼が唯一気が休まる時間は、一家団欒で過ごす夕餉のときだ。

「ただいま」
愛する妻と、高校に通う可愛い一人娘が待つ自宅のドアを開けると、彼はようやく定規のように伸ばした背筋を緩めることができた。

夕食をつくる手をとめ玄関に出迎えた妻の笑顔に癒やされた後、彼は疲れをとるために風呂へと向かう。
熱めの湯船につかると、体の芯までほぐれてくるようだ。
このひと時が、彼にとって極上の時間である。

ひと風呂浴びてさっぱりすると、彼は愛する家族のいる食卓に向かう。
今晩のメニューは、彼の好物の鯖の味噌煮だ。

「いや、待たせてゴメン。では、いただこうか」
彼は自分の席につくと、コップに手を伸ばす。

そのコップに、愛妻は瓶ビールを注ぐ。
「今日も一日ご苦労様でした」

「うむ、ありがとう」
彼はそう言って、きれいに泡のたったビールを一気に飲み干す。
この一杯がなんともいえぬのだ。

二杯目のお酌を受けた後、彼は娘に尋ねる。
「今日は、どうだった学校は?」

「うん、楽しかったよ」
娘はチャーミングなえくぼができる笑顔で答える。

折目正は、彼に似ない美形の一人娘が目の中に入れても痛くないほど可愛く思う。

彼は思春期の頃から、自分の容姿に劣等感をもっていた。
そのハンデを背負った彼が美しい妻を娶るには、高給のもらえる一流企業に就職するしかなかった。
その目標を達成するために、彼は猛勉強をして一流大学に入り、今の銀行から内定をもらうことができたのだ。

妻と出会ったのは、その銀行である。
いわゆる職場結婚で、彼のその真面目で人当たりのいい性格に惹かれたらしく、妻は彼のプロポーズを受け入れてくれたのだ。

「それでさぁ、今度の日曜日、友達のアイコの家でやるバーベキューに誘われたんだけど、行ってもいい?」
妻似の娘は瓶ビールを手にとると、彼にお酌しながら言う。

「もちろん」
彼は笑顔で返したが、心のうちは残念に思う。

彼の楽しみは、娘とゆっくり過ごせる休日なのだ。
しかし、かわいい娘に頼まれると、ダメだとは言えない。
まぁ、男友達との遊びでない分マシか、と思い、彼は自分を慰める。

「ありがとう」娘はさらに深いエクボの刻まれた満面の笑顔で礼を言い、母親に話しかける。「アイコのお父さんてさぁ、すごいイケメンなんだよ」

「そうなの。それはステキね」と妻は答える。「芸能人でいったら、誰に似ているの?」

「う〜ん、福山雅治かな」

「ホント。かっこいいパパね」
妻は目を輝かせて言う。

妻が福山雅治の大ファンであることを知っている彼は、嫉妬を覚え始める。

「バーベキューのとき、アイコのお父さんも来るんだ。今から楽しみだよ」

「私も、一緒に行きたいわぁ」
半ば本気の様子で、妻は言う。

彼は面白くない妻子の会話を、我慢を重ねて無言で聞く。
しかし、彼へのお酌も忘れて盛りあがる二人の会話は一向に終わる気配がない。

そしてついに彼の堪忍袋の緒が切れた。

「悪かったなぁ、お父さんはイケメンじゃなくって」と彼は鼻息を荒くして言った。「でも、几帳メンさにおいては、そのアイコとやらの父親には負けんぞ。それだけは、覚えておけ」

じいちゃんのネクタイ

就職活動の苦労が実り、第一志望の企業に入社できたので、じいちゃんの家に挨拶に向かった。

じいちゃんの家は、九州の片田舎にある。
ボクは東京の大学に進学したので、なかなか帰省できず、じいちゃんの家に来るのは4年ぶりだ。

社会人になった立派な姿を見せたくて、ボクは彼女が選んでくれたネクタイと、初月給で奮発して買ったブランドもののスーツを着てきた。

駅からじいちゃんの家まで歩いてきたが、初夏の陽気にこの出で立ちは少々暑い。
ついにたまりかねてスーツの上着を脱いでしまったが、じいちゃんの家の玄関の前に立つと、それを着直し、玄関のベルを押した。

「は~い」と言って、玄関のドアを開けたのは、ばあちゃんだった。

「ばあちゃん、久しぶりです。晴れて社会人になれたので、挨拶にきました」
ボクは新人研修で学んだ礼儀正しい挨拶をしてみせた。

「おや、トシ坊じゃないか。久しぶりじゃのう。まぁ、立派になって」
ばあちゃんは、しわくちゃの顔に満面の笑みを浮かべて言った。

「じいちゃん、いる?」
ボクは大好きなじいちゃんに、一刻も早く会いたくて、そう尋ねる。

「ああ、裏の畑にいるだよ」

「じゃ、ちょっと行ってみる」
ボクは身だしなみを整えて、裏の畑にまわる。

すると、畑仕事に励んでいるじいちゃんの背中が見えた。

「じいちゃ~ん!」
ボクは大声をあげて、その背中に呼びかける。

「おお、トシ坊じゃないか!」
麦わら帽子をかぶったじいちゃんが振り返る。

しかし、その姿に違和感を覚えた。
じいちゃんも、ネクタイをしているのだ。

なんで畑仕事をするのにネクタイをする必要があるのかと、いぶかりながら、ボクはじいちゃんに近づく。

そして、虫の柄のついた黄緑色のネクタイを見つめて訊いた。
「じいちゃん、なんでネクタイしているの?」

「ああ、これか…」じいちゃんがネクタイにふれると、それはじいちゃんの指にはりついた。「ああ、いかん。うっかり、触れてしもうた。これはハエ取り紙なんじゃよ。畑仕事をしていると、虫が寄ってきてかなわんから、首からぶらさげとるだ」

盗み食いの犯人

クラス担任の教師は、昼休み後の授業が始まる前に教壇から生徒を見渡して言った。
「誰だ、このなかで中山の弁当を盗み食いしたヤツは!」

弁当を盗み食いされたという中山という生徒は、一番後列の窓際の席でうなだれている。

「正直に言いなさい」教師は彼の席にゆっくり歩み寄りながら言う。「見ろ、中山泣いているじゃないか」

しかし生徒たちは静まりかえったまま、何の反応も示さない。

「わかった。そうだよな。みんなの前で自分がやったなんて言えるもんじゃないもんな」教師は教室を一回りして、教壇に戻ると言った。「じゃ、みんな目をつむれ。そしてやったヤツは、正直に手をあげろ。そうすれば、先生だけにわかるだけだ。先生は約束する。絶対、真犯人を口外しないと」

生徒たちは、教師に言われたとおり目を閉じた。
しかし、誰も手をあげなかった。

教師は机をバンとたたいて言った。
「先生は悲しいぞ。教え子のなかに、そんな卑怯な人間がいるなんて」

すると、中山という生徒はおずおずと手をあげて言った。
「先生、ちょっとお聞きしたいのですが、今日の先生のお弁当には、ナポリタンが入っていましたか?」

「い、いいや」教師は、ちょっと動揺した表情を浮かべて答えた。「オレの今日の弁当は、シャケと卵焼きのはいった純和風のものだ」

「ボクのお弁当にはナポリタンがはいっていたんですけど、盗み食いされたのは、それなんです」
中山という生徒がそう言うと、生徒らの視線は教師の口元についたナポリタンのケチャップらしき汚れに集まった。

高齢化社会に大切なもの

確か、NHK総合で毎週日曜日の朝にやっている「小さな旅」だったと思いますが、古い機械を大切に使っている職人さんがこんなことを言っていました。

「機械は、給料をもらわないのに不平不満を言わず働いてくれている。だから、機械は大切に扱わなければならない。仕事が終わったら、油をくれてやり、きれいに掃除してやる。それが機械にしてやれる給料のかわりだ」

私も機械を扱う仕事に就いていますが、そんな風に機械に接してこなかったので、その職人さんの言葉にけっこう胸を打たれました。

そういえば、イチローもバットなどの道具を入念に手入れするそうです。
イチローに限らず、一流といわれる人は皆、自分の使う仕事道具を雑に扱うことはないでしょう。

そうやって愛情をもってメンテナンスをしてやれば、不調がおこるリスクも減りますし、機械の寿命も延びるものです。

それは人も同じではないでしょうか。

最近、ブラック企業の増加が社会問題になり、その歯止めをしなければならない国すらも、その後押しをするかのように、残業代ゼロの法案をあげようとしています。

確かに、国際競争が激化するなか、人件費を削らなければ、生き残れない事情があるのかもしれません。

しかし、人間も機械と同様に、誰もが経年劣化し、若い頃のような働きはできなくなるものです。
そうなったら会社の足を引っ張るだけだから、お払い箱というのでは、あまりにも利益本位すぎないでしょうか。

会社は、国民が生活の糧を得るための利潤を分配する装置でもあるのです。
また、そういう装置として機能してこそ、消費が安定し、経済が回り、ひいては犯罪も減ることになるのです。

機械を大切に扱う職人のように、人を大切に扱う社会が、幸福な国造りの礎になるはずです。
でないと、ただ問題を抱えた高齢化社会になるばかりだと思いますが、どうでしょうか。

隗より始めよ

「指差呼称」って、ご存じですか?
みなさんがよく見られる例をあげれば、電車の運転手が「前方確認、よ~し」などと指さしながらやっているあれです。

「指差呼称」は、ヒューマンエラーを防ぐための有効な手立てとして、私の働く職場でも活用されています。

とくに最近、私の属する課でミスが続いているので、今朝の朝礼でいつもは参加しない部長が出席し、その重要性について力説していました。

それに続いて、「クレームについても、もう四月にして目標件数をこえてしまっているんだぞ。他の課にくらべて、あまりにひどすぎる。たるんでいるんじゃないか。もっと気を入れて仕事をしろ」などと、小言を言われてしまい、朝からみんなしおれてしまいました。

と、その時です。

我々が朝礼を行っている倉庫の横を、副本部長が通りかかりました。
歩きスマホをしていたので、「あぶないな」と思ってチラ見していたら、案の定、手前の柱にぶつかりそうになりました。

そういえば、この部長も朝すれ違ったとき、駐車場から歩きスマホをしていました。

「先ず隗より始めよ」という故事成語がありますが、部下は上司のふるまいを厳しくみているものです。
自分のことは棚に上げといてと言われぬよう、注意してもらいたいものです。

逆上させる励まし

「もう日が暮れるぜ。あきらめろよ」
友人がついに根をあげた。

「嫌だ!」ボクは水平線に半分沈んだ夕日を指さして反発する。「完全に日が沈むまでは頑張る」

「そんなのもうすぐじゃないか」友人は呆れ顔で言う。「もう頑張ったって同じだって」

「お前、他人事だからそんなことを言えるんだ」ボクは友人をキッと睨みつける。「あのUSBメモリーには、重要なデーターが入っているんだぞ。もしあれが見つからなかったら大変なことになる」

「そんな言い方はないだろ!」友人もボクに負けないくらいの形相で睨み返した。「大体、なんでそんなに重要なものをポケットなんかに入れとくんだよ」

考えてみれば、友人はボクにつきあって3時間近くも浜辺でUSBメモリーをさがしてくれたのだ。
友人の言うとおりで、こんな事態になったのは自分の不注意だ。

ボクは、大人げない態度をとってしまったと反省して、「ごめん」と謝った。

有り難くも友人は、「気にすんな」と水に流してくれ、「波に流されていなければいいけどな」と言った。

ボクは波打ち際に目を泳がせて言う。「もしそうだとしたら、どうしよう…」

「ま、いずれにしても、今日はもう無理だ」友人はボクの肩をたたく。「さがすのは、明朝にしよう」

「ああ」
オレは肩を落として従う。
もう太陽は水平線に沈んだ。これ以上、友人をつきあわせるわけにもいかない。

「ま、気を落とすな。カラオケでもいって嫌なことを忘れよう」
友人はそうボクを励ますと、ボクをつれてカラオケボックスに向かった。

しかし、酔いが回ってくると、友人はボクを逆なでするような選曲をした。
「よ~し。つぎは、じぇじぇじぇ。潮騒のメモリーを歌っちゃうぞ」

軍師寛平

涼しい風が吹く木陰の下の、柔らかい真綿のような芝の上に、三千人ほどの兵隊が昼寝をしている。

真夏の八月の太陽が西に傾きかけた頃、遠くから落雷のような人の声が響いてきた。

軍師寛平はむくりと起きあがると、崖の上から声のしたほうを見下ろす。

「うむ、うまくいった。定刻通りじゃ」
軍師寛平は、策が首尾良く運んでいることにほくそ笑む。

黒の甲冑をつけた五千人ほどの敵兵の前には、赤の甲冑をつけた五百人ほどの味方兵がいる。
それら味方兵は、どれもこの地を知り尽くした馬乗りの名手ばかりだ。

彼らは、この炎天下のなか、敵陣に切り込んだ午前九時から今の午後二時まで休みなしに、敵に追われてここまで逃げてきた。

これから、この崖の下で馬の足をとめ、予定通りに戦が始まるのだ。

「皆よ、甲冑をつけよ!」
軍師寛平は、早めの昼飯の後、涼しい木陰の下でたっぷりと体を休めた兵士らに号令をかける。

「策はうまくいっているようじゃの」
この地を治める武将赤池義清が軍師寛平に声をかける。

「はっ。うまく罠にはまってくれました」軍師寛平は喜びの声を返す。「この炎天下のなか、休みなしに暑苦しい甲冑をつけて馬を駆ってきた敵兵たちの体力は、相当弱まっているはずです。さらにこの真下で戦を始めれば、敵兵たちの体力は消耗しつくすことでしょう。その頃合いを見計らって戦に加われば、兵士の数に劣る我が軍でも勝ち目はあります」

「そうか」赤池義清は満足げに頷く。「果報は寝て待てというが、その言葉が本当になることを信じておるぞ」

「お任せ下さい」
軍師寛平は自信に満ちた声で答えると、自分も赤の甲冑を着けはじめた。

春の別れ

春は、出会いのシーズンでもあるが、別れのシーズンでもある。

何百といたボクの仲間も、ひとり減り、ふたり減り、ついにボクひとりになってしまった。

仲間がたくさんいた頃は、賑やかだった。

大勢の人たちが、ボクらに会いに来てくれ、毎日が祭りのようだった。

しかし今は、誰も見向きもしてくれない。

ただ、春の強い風が訪れるだけだ。

ボクも、大分弱ってきた。

しわくちゃのじいさんになってしまった。

ボクが、この世からおさらばするのも、そう遠い未来ではあるまい。

ボクの短い余生を哀れむように、冷たい雨が降ってきた。

しかしそれが、ボクを散らす凶器になるかもしれない。

でも、ボクの下からは、若い命がでてきている。

生まれ変わりがあるのなら、来年また散った仲間や花見客と再会したい。

第六十三話 暗闇のシルエット

★初めての方はこちらから★

ラマ観光の添乗員であるギースに四六時中監視されていることを考えると、ケンシロウはなかなか寝つけませんでした。

今夜は風が強く、外は物音が頻繁にします。
その度事に、ケンシロウは外にギースがいるのではないかと反応し、震えあがっています。

ああ、こんなとき酒でもあればいいのになぁ、とケンシロウは思いました。
地球にいた頃は、仕事のプレッシャーなどで寝つけない夜は、よくアルコールの力を借りたものです。

しかし、アルパカ星には酒はないようです。
ビール好きのケンシロウは、このまま一生、酒が飲めないのかと思うと、ひどく淋しい気分になってきました。

なのに、ビールを大量にのんだ夜のように、先ほどからケンシロウは尿意を催しています。

お化けの話を聞いてトイレに行くのを怖がっている子どものように、ケンシロウはずっとトイレを我慢をしていましたが、ついに限界に達してきました。

もうダメだ!

ついに我慢の限界を超え、ケンシロウはトイレに行くためにベッドを離れました。

そして恐る恐るトイレのある一階に下りていくと、何か物音が聞こえました。

家の中は暗闇に包まれていましたが、眠れない夜で目を開けていましたので、ケンシロウは暗闇に目が慣れています。

目を凝らして物音がしたほうを見ると、そこには何者かがいました。

そよ風ファミリーの誰かが、同じようにトイレに行こうとしているのかと思いましたが、どうもそのシルエットに違和感があります。

とくに違和感を覚えたのは、そのシルエットの耳の形です。
そのシルエットの耳は、角のように尖っていました。

しかしそよ風ファミリーのなかには、そんな形をした耳をもった者はいません。

ケンシロウが会ったなかで、そのような耳の形をしていたのは、ギースぐらいです。

ギース!

第六十三話+のコピー_convert_20140510054855

ケンシロウは心臓が口から飛び出すくらいの恐怖に襲われ、そこで凍りつきました。

前へ

次へ

★あらすじ★

花金にみるテレビ

ゴールデンウィーク明けのハードな仕事がおわり、ようやく週末を迎えることができました。
なんかゴールデンウィーク前よりも、うれしかったりしています。

そういう浮かれた気分でいる金曜日の夜って、つい夜更かしをしてしまうんですよね。

昔から金曜日の夜といえば、「探偵ナイトスクープ」を観るのを習慣にしています。
飽きないんですよね、この番組。
本当に面白くて、大好きです。

で、そのつなぎとして最近観ているのは、NHK総合の「ドキュメント72時間」です。

この番組は、「探偵ナイトスクープ」とは真逆なくらい(失礼)マジメな番組ですが、とても癒やされます。

番組の内容は、ある場所にカメラを据えて、3日間、つまり72時間、定点観測するだけのものです。

しかし、そこに行き交う人たちは、いろんなドラマを抱えています。
普通にみえる人たちでも、いろんな悩みを抱えていることを知ることで、人生の深みに触れることができる貴重な番組だと思います。

よろしかったら、ご覧下さい。

声なき貧困を題材にしたドラマ

部署がかわってから、平日は午後10時前に寝る習慣がついてしまいました。
心身の疲れをとるには、睡眠が一番というわけで、さっさと布団に入ってしまっているからです。

というわけで、ブログの更新はおろか、あまりテレビをみる時間もありません。

そんななか、録画予約をしてまで楽しみにしているドラマがあります。

そのドラマとは、NHK総合で毎週火曜日午後10時から放送されている『サイレント・プア』です。

番組の内容は、社会に広がっている「見えない貧しさ」に苦しむ人たちを救うために働くコミュニティ・ソーシャルワーカー(CSW) を主人公にしたものです。

主人公の里見涼というCSWを演じるのは、深田恭子さんです。

舞台は東京下町です。
結構シリアスな内容で、ゴミ屋敷の主、引きこもり、ホームレス、若年性認知症など現代社会が抱える深刻な問題を扱っています。

主人公の里見涼自身も、独りで抱え続ける絶望的なトラウマをもっているのですが、それがあるがゆえにサイレント・プアを見捨てておけず、「人生は何度でも生き直せる」を信念に、懸命に彼らに手を差しのべるのです。

このドラマを観ていると、なんか救われた気になるんですよね。
孤独感が薄れるというか…。

深田恭子さんも、好演しております。

4月8日にスタートし、9話連続。
5話がすでに終わり、残り4話なので、今更な紹介かもしれませんが、よろしかったらご覧下さい。

山をこえた充実感

楽しかったゴールデンウィーク。
今日は、その余韻をぐわっと打ち消してしまうような、ハードな一日でした。

5時20分に起床して、家を出たのは6時20分。
会社には、7時前に着き、大急ぎで仕事に取りかかり、お昼までノンストップの激務。
かき込むように10分で熱々のラーメンを食べ、それからすぐに仕事を再開。
それから休みなしで働き、ようやく4時半ごろに人心地ついて、後片付けをして帰宅したという一日でした。

長期休みはいいんですが、そのぶん、休み明けに反動が来る仕事なので、昨日の午後あたりから憂鬱でした。

でも、仕事に取りかかり始めると、そんなことを悩んでいる余裕もなく、ただ目の前の仕事を精一杯やるしかないんですよね。

大変な一日でしたが、山を乗り越えた充実感もありました。

部署がかわって3ヶ月が経ち、知らぬ間に仕事にも慣れ、優先順位をきめて効率よく仕事ができるようになったことも、うれしいことです。

こうやって自信が深まっていくのでしょうね。

お助けスーパー

高齢化社会で「買い物弱者」といわれる人たちが増えている。
とくに過疎地では、お困りの高齢者が多いことであろう。

思い出してみれば、私の祖父母もそういう山間地に住んでいた。
子供の頃、祖父母の家に遊びに行くと、移動販売車なるものが来て、不便な暮らしをしているその集落に住む人達を助けていた。

いまもそういうものがあるのだろうか。
モータリゼーションが進み、そういう採算に合わない商売はなくなっているかもしれない。
そう思うと、確かめたくなるのが人情だ。

ゴールデンウィークを使い、祖父母のお墓参りもかねて、何十年ぶりに祖父母の暮らした過疎地に行ってみることにした。

細いくねくね道をあがってその集落に入って行くと、やはり当時より民家は減っている。
お墓参りの後、当時良く遊びにいった民家に寄ってみた。

すると、幼なじみが玄関から顔を出し、「おお、久しぶり」と肩を叩き合い、昔話に花を咲かせた。
その流れの中から、移動販売車の話題にはいった。

「まだ、そういうのあるの」と私が訊くと、「あるよ」と幼なじみは頷く。「まぁ、商売にならないから、月に一回しか来ないけどね」

「へぇ〜、そうなんだ。月に一回しか来ないのかぁ」

「そう。毎月8日に来るのさ」

「ほう。8日にね」私はカレンダーをみて言う。「じゃ、今日は6日だから、あさって来るってわけだ」

「うん」

「だから、その移動販売車の名は、8日堂って言うんだよ」

「言い換えれば、移動8日堂ってわけだな。まるでどこかの大手スーパーのような名になる」

「ホントだ」と言って、幼なじみは手を叩く。

家族の間ではスベってばかりのオヤジギャグであるが、幼なじみのツボにはまったらしく、ふたりで子供の頃のように大笑いした。

04 | 2014/05 | 06
Su Mo Tu We Th Fr Sa
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
プロフィール

マウントエレファント

Author:マウントエレファント
アルパカとバラとスプリング、つまり春(おまえはルー大柴か)を愛するナイスミドル?なサラリーマンです。でも同僚には、そんな趣味、ばらしません。キモイっていわれますから。残念!(古っ!)

にほんブログ村
ランキングに参加しています。投票していただけると励みになります。
ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村 にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
にほんブログ村 にほんブログ村 イラストブログ 挿絵へ
にほんブログ村 にほんブログ村 漫画ブログ 4コマ漫画へ
にほんブログ村
人気ブログランキング
ランキングに参加しています。投票していただけると励みになります。
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
小説・文学
325位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
SF
2位
アクセスランキングを見る>>
最新記事
カテゴリ
英検準1級単語ドリル 黒猫版
日々の努力が実を結ぶ

計算×50
頭の体操にどうぞ
名言
不安な明日も先人の励ましで乗りきりましょう

地球の名言 -名言集-

最新コメント
お気軽にコメントをどうぞ
月別アーカイブ
アクセスカウンター
リンク
リンクフリーです
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

検索フォーム
QRコード
QR
RSSリンクの表示
最新トラックバック
カテゴリ