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逃げの一手

形勢は圧倒的に不利であった。
というより、勝ち目はまったくないと断言してもいいような事態にあった。

事件は、武将赤池義清が軍師寛平と二十名程の兵を引き連れて、隣国に鷹狩に向かう最中に起きた。
突如として現れた三百名程の敵兵に、背後から奇襲を受けたのだ。

これには、さすがの軍師寛平にしても、赤池義清を守りながら逃げるしか策はなかった。
幸い弓の名人盛田信成を伴につれていたので、彼の放つ矢に救われ、なんとか人目につかぬ洞穴に逃げ込むことができたのだ。

しかしほとんどの兵を失い、残ったのは、赤池義清と軍師寛平、盛田信成の他、三名の兵だけだ。
しかも、鷹狩が目的であったので、誰も甲冑をつけていない。
この状態で敵兵に見つかれば、今度こそ助かる見込みはないだろう。

「われらが、少ない兵を率いて鷹狩にいくという情報が、どこかから漏れたに違いありませぬな」
盛田信成は、残り少ない弓矢を心細そうに見つめながら言った。

「うぬ」
赤池義清も、血の気を失った顔を縦に振るのがやっとである。

「援軍を呼ぶしかないか。のう、寛平」
盛田信成は、鷹狩に携えた地図から顔をあげぬ寛平に向けて、荒っぽく弓を放り投げる。

「それは無理じゃ」寛平は地図から顔をあげて答える。「城に向かう道のりには、敵兵が待ち構えている。それも策として、奴らは背後から我々を襲ったのだ」

「では、打つ手はなしか…」
赤池義清は天を仰ぐ。
太陽は真上近くにのぼっており、逃亡に有利な日暮れには、まだかなり間がある。

「いえ、策はあります」軍師寛平は、地図を懐にしまうと言った。「ただし、さすがにこの格好では戦えません。一か八かになりますが、亡くなった敵兵の甲冑を三つほど拾ってこれれば、何とかなるかもしれません」

「そうか、裸では戦えぬものな」赤池義清は薄い着物をさすりながら、軍師寛平と盛田信成を除いた三名の兵に向けて言った。「この命を全うできる勇者はおるか?」

「はい」
一番若い兵が勇ましく手をあげた。
この少年兵の父は、盛田信成と並んで弓の名手といわれていた。
しかし三年ほど前、今日奇襲を仕掛けてきた敵と戦い、体中に矢を受け、命を落とした。
その恨みが、まだ桃のように頬の赤い少年兵の手を押し上げさせたのかもしれない。

「よし」彼の想いを知る赤池義清は、汗の滴る顔で頷く。「頼むぞ」

「はっ」
少年兵は礼をするとすぐに、音をたてぬように斜面を這い上がり、盛田信成が打った敵兵の亡骸があるほうへと向かっていった。

太陽が若干、西に傾いた頃、少年兵が帰ってきた。
手には、命じられたとおり甲冑を三つ抱えている。

「でかした!」
赤池義清は、太ももを扇でたたいて喜ぶ。

「よくやった」
寛平は、汗みずくの英雄の肩をたたき、その手からふたつの甲冑を受け取る。
そしてその甲冑のひとつを盛田信成に渡すと、手にした甲冑を身につけながら言った。
「それを身につけて、ワシについてくるのじゃ」

「これをつけて敵と戦えというのか…」
豪傑といわれる盛田信成は、信じられぬといった表情で訊く。

「いいから、ワシについてくるのじゃ」
軍師寛平は、会話を続ける時間ももったいないというように、急いで馬にまたがる。

「ええい、わかった。お主と地獄の底までついていってやるわい」覚悟をきめた盛田信成は甲冑を身につけると、続いて馬にまたがる。そして甲冑をもって呆然としている英雄に目をやる。「お前も早くせい」

かくして、軍師寛平を先頭にした三名は森の奥へと消えていったのであった。

三名が洞窟に戻ってきたのは、日がだいぶ西に傾いた頃であった。

「うまくいきましたぞ」
盛田信成は豪快に笑いながら、赤池義清に告げた。

「真か」
心労から疲弊しきった赤池義清の顔に生気が蘇る。

「はっ、援軍が敵を撃退してくれているはずです」
軍師寛平は、意味深な笑みを浮かべて言う。

「なに、援軍を呼びに行ったのか?」
赤池義清は目を丸くして尋ねる。

「はっ」軍師寛平は楽しげに頷く。「ただし、援軍は我が軍の兵ではありませぬ」

「どういうことじゃ」
赤池義清は首を傾げる。

それに答えたのは、盛田信成だった。
「わしらは敵兵の待っておらぬ隣国の城に向かい馬を走らせると、その門に構える兵にむけて矢を放ったのでございます」盛田信成は弓をはってみせる。「そしたら、やつらめ。敵が襲ってきたと勘違いし、大慌てで大勢の兵を集めると、わしらの後を追ってきました」

「ほう」赤池義清は、続きを催促するように顎鬚をなでる。「それで」

「あとは、敵をまいてこの洞窟に逃げるだけです」盛田信成は弓を股にはさみ、馬に乗る真似をしてみせた。「今頃、奴らは、これと同じ甲冑をきた敵兵と激戦を繰り広げていることでしょう」
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アルパカとバラとスプリング、つまり春(おまえはルー大柴か)を愛するナイスミドル?なサラリーマンです。でも同僚には、そんな趣味、ばらしません。キモイっていわれますから。残念!(古っ!)

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