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自分のことは棚に上げていい

「寅さんおかえり」
タコ社長は、いつものように勝手に人の家に入ってくると、半年ぶりに帰ってきた車寅次郎に声をかける。

「よっ、社長。相変わらず経営は苦しいか?」
団扇で蝿を追い払いながらビールを飲んでいる車寅次郎は、相変わらずの憎まれ口を叩く。

「大変なんてもんじゃないよ」タコ社長はうっかり油まみれのタオルで、汗の滲んだ太い首を拭いながら答える。「もう、首をくくってしまいたいよ」

「へ〜っ。それが首かい」車寅次郎は細い目を凝らして、タコ社長の油で汚れた首筋を見る。「タコに首があるなんて、俺は初めて知ったよ」

「な、なにを…」短気なタコ社長の顔は見る見る間に、茹でダコのように真っ赤になる。「寅さんに面のことは言われたくないね。自分だってカニみたいな四角い顔しているくせに。カニなんて首どころか、顔に足が生えているだけじゃないか」

「ハハハ」
タコ社長が自分の顔を両手で挟み、蟹の足のように指を動かしてみせると、おいちゃんは不用意にも笑ってしまう。

車寅次郎はおいちゃんをキッと睨んだ後、手にした団扇をタコ社長めがけてなげつける。
そしていつもの啖呵だ。
「おい、タコ。表にでろ! 今日は、ただじゃ済まさねえぞ」

「おお、やってやろうじゃないか。こっちこそ、半殺しにしてやる」
タコ社長は腕まくりをして、その喧嘩を買う。

「やめてよ。お兄ちゃん」
すかさず、さくらが仲裁に入る。

「そうですよお兄さん。久しぶりに帰ってきたんですから、喧嘩なんてやめて、楽しく夕食を食べましょうよ」さくらの夫博も、仲裁に加わる。「ほら、社長も大人げないことはやめて。お兄さんがおみやげに買ってきてくれた、くさやで一杯やりませんか」

「ふん」タコ社長は吐き捨てるように言う。「俺はねえ、何が嫌いって、くさやほど嫌いなものはないんだ。あんなうんこみたいな匂いのするものを口に入れたら、口の中が厠になってしまうよ」

「な、なんだと…」車寅次郎はくさやを手にとると、今度はそれを投げつけようと腕を振りあげる。「テメエのたらすくそは、このくさやの何倍もくさいくせに。よくもそんなことをいえたもんだ」

「もう、いい加減にして!」
おばちゃんが着物の袖を目元に当て、泣き始める。

車寅次郎はそれで戦意を喪失して、舌打ちをしながらくさやを皿に放り投げる。
そして一張羅の背広の上着とトランクを手にすると、「俺は旅に出るぜ。止めるな、さくら」と捨て台詞を吐き、一呼吸おいて「止めるなよ」と繰り返した。

しかしさくらは、その言葉と裏腹な兄の想いを汲もうとしない。
押し黙ったまま、そっぽをむいている。

「止めないのか、さくら」
見かねたおいちゃんが声をかける。

「だって…」とさくらは、涙声で答える。「お兄ちゃん、ひどいことばっか言うんだもの。自分のことは棚に上げておいて…」

「なんだよ。その言い草は」車寅次郎は細い目をつり上げると、手にしたトランクを再び床に置く。「自分のことを棚に上げてものを言うから、世の中うまくいくんじゃないか」

「どういうことですか、兄さん」
涙で声がでないさくらにかわって、博が訊く。

「オマエは学があるようで、何もわかっていないねぇ」
寅は博のまえにどっかと腰を下ろす。

「スミマセン」
博はペコリと頭を下げる。

「いいかい」寅は講釈を始める。「みんな、どこか欠点をもっているものだよ。でも頭に血がのぼると我を忘れて、つい他人に注意をしてしまう。それが人間てもんだ。わかるかい」

「ええ」
博は素直に頷く。

「それを、自分は欠点だらけの人間だから、何も他人に注意できない身分だと、世の中の人間全員が遠慮したらどうなると思う」

「だれも、注意する人がいなくなってしまいますね」

「だろ」寅は勝ち誇った表情を浮かべて博を見る。それから居間に集まった全員の顔を見回す。「だから、自分のことを棚に上げて、他人に注意していいの。わかりましたか、みなさん」

居間に集まったご一堂は、妙に説得力のある車寅次郎の講釈に返す言葉もなく、ただ頷くだけだった。
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No title

さすが堂に入ったものですね恐れ入りました(笑)

私は大阪で生まれ育ったので大阪的な悪ふざけの過ぎるような笑いの中で育ちました。
 若いころは盛り場に繰り出すとよく芸人さんを見かけることがありました。これは大阪人の業とでも言いますか、応援している芸人さんとすれ違ったりするとほとんど反射的に何か言ってしまうんです。芸人さんが食事中でも恐縮しながらも声をかけてしまうんです。
半分酔っぱらっていても、ばったり顔を合わすと「○○はん、わたしファンですねん、ごっつい応援してますねん、ほんま頑張って下さいよ」と気に入った芸人さんにはおもしろいように口をついて応援の言葉が出るのです。

「軍師寛平」ゆっくり読ませていただきます。
カンペ~ちゃんはデビュー直後のころ難波花月の楽屋に押しかけてサインをいただきました。ここに持ってきています。アメリカに来てからは下の子供が2,3才のころHPにあったギャグのビデオを見せると泣きやんだので子供の写真とメッセージを送ったところ海を越えて年賀状をいただきました。
アホでしょうがないオッサンですが大ファンです。

笑わせようと考えて書かれた笑いは大好きです。またおもしろいものお願い致します。

No title

MKさん
コメントありがとうございます。

大阪は芸人さんを普通に見られていいですね。
うらやましい。
軍師寛平は、今やってる『軍師官兵衛』のパロディのつもりで始めたのですが、策で敵をギャフンといわす、けっこうまじめなものになってしまい、そのパターンを崩せずにいます。
こういう趣向のものもありかと書き続けていますので、よろしかったらご愛顧下さい。
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マウントエレファント

Author:マウントエレファント
アルパカとバラとスプリング、つまり春(おまえはルー大柴か)を愛するナイスミドル?なサラリーマンです。でも同僚には、そんな趣味、ばらしません。キモイっていわれますから。残念!(古っ!)

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