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砂の城

「寛平よ。跡目のことじゃが、どうしたものかのう」
武将赤池義清は浜辺で遊ぶ双子の幼い息子を眺めながら、軍師寛平に訊く。

「はぁ…」
即座に答えかねて軍師寛平は言葉を詰まらせる。

赤池義清の六歳の双子は、性格が正反対である。
長男の信繁は茫洋としており、外で遊ぶのを好む。
それに対して次男の広忠は利発で、向学心がある。

次男が優秀なので、どうしても長男がうつけ者に見えてしまう。
家督を継ぐのは長男が常識的であるので、赤池義清は頭を悩ませているのだ。

「双子であれば、同時に生まれたようなものじゃ。どちらが家督を継いでも、うるさく言われまいと思うのじゃが」

赤池義清は、次男の広忠に家督を継がせる気でいるらしい。
軍師寛平は、それは性急であると思った。

「どちらが親方になる才があるか、ひとつ試してみましょう」
軍師寛平は、双子がもってきた甲虫のはいった虫かごをもちあげて言う。

「なに、その虫かごでか?」

「はっ」
軍師寛平は頷いて、浜辺で追いかけっこをしている双子を呼ぶ。

双子は息をからして赤池義清と軍師寛平のほうに駆けてくる。

「なんじゃ寛平」
尋ねてきたのは、遅れてきた次男の広忠のほうである。

「城づくりの競争をしませぬか?」

「なに、城づくりじゃと」と広忠。

「そうでございます。浜辺の砂をつかって、ご兄弟で城づくりの競争をしてもらいたいのであります」と寛平は答えて、二人がもってきたそれぞれの虫かごを彼らの顔の高さに持ちあげる。「この虫かごを殿様のおられる御殿に見立てて、城をつくってください。さぁ、どちらが立派なお城を建てられるか。お父上も、楽しみにしておりますぞ」

「うむ」赤池義清は寛平に目配せを受け、流されるまま頷く。「浜辺へ急いで、城づくりを始めよ」

「はっ、父上!」
広忠は快活に答え、踵を浜辺の方に向ける。
遅れて信繁は、キョロキョロとあたりを見ながら浜辺の方に歩いていった。

浜辺についても、信繁の動作は緩慢であった。
すぐに城づくりに着手した広忠に対して、信繁は天を仰いだり、波打ち際のほうへ歩いてみたり、一向に城づくりにとりかかる気配がない。

「やはり、うつけ者かのう」と赤池義清はため息をつく。

信繁が暢気にしているあいだに、器用な広忠は五重六階の立派な城を造形していく。

「馬鹿め。早くしないと天気が崩れてしまうわい」
赤池義清は黒い雲が広がり始めた天を仰いで言う。

そこでようやく、信繁は築城をはじめた。
しかしそれは簡単なものであった。
広大な円のまわりに堀をつくると、その中心に虫かごを置いただけのものである。

同時に広忠も、天守閣に虫かごをおいて城をつくり終えた。

「どう見ても、広忠の勝ちじゃのう」と赤池義清は沈んだ声で言った。

しかし寛平は、「どうですかな」とほくそ笑む。

「決まっとるじゃろう」
赤池義清が寛平に顔をむけたとき、ついに大粒の雨が降り始めた。

にわか雨は、あっという間に激しい音をたてて浜辺を濡らした。

寛平の指示で大木の木陰で雨宿りをする赤池義清と双子の息子は、遠くに見える城をじっと見守る。

「ああ、せっかくつくったのに…」
豪雨に打たれて、天守閣が崩れていく城を眺めながら広忠は落胆の声をあげる。

「天候を読みましたな」
寛平は、平然とした顔で城をみつめる信繁に尋ねる。

「入道雲の動きがあやしかったのでのう」と信繁は答える。

信繁のつくった城は、浜辺のうえに虫かごをおいただけなので崩れようがなく、その城のまわりにはられた深い堀には敵を寄せつけない量の雨水がたまっていった。
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No title

砂の城築城に世渡りの才を見出したのか
子息が成人した後の軍師の活躍が見える! かもしれない?

No title

しまうさぎさん
コメントありがとうございます。

上に立つ者の資質のひとつに、いかにはやく状況判断ができて、それを行動に移せるかというものがあると思います。
とくに状況が変わりやすい戦国時代は、その才能が必要になるでしょう。
軍師寛平は、城造りの競争で、立派な城をつくるかどうかを見たかったのではなく、天候が悪化する気配のなかで、その情報を城造りに反映できるかを見たかったのです。
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