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レジェンド

安物の腕時計の針は、もう午後11時近くなっていた。

最終電車に乗って自宅に最寄りのこの駅に降りるのは、もう日常的な光景になってしまった。
しかしこの侘びしさに慣れることはない。
いや、日に日に重石をのせられていくようだ。

心身とも疲れ果て古ぼけたアパートのドアを開けても、誰も待っているわけではない。
何のために自分は生きているのかと思う。

いわゆる負け組といわれる会社に勤めているので、自分の未来には星ひとつ見えない。
秋の澄んだ夜空に輝く星をひとつわけてもらいたいくらいだった。

深い溜息をついて、駅前に出る。
いつもは死んだ町のように、ちんやりとした通りに、めずらしくおでんの屋台が出ているのが見えた。

腹も空いているし、心身ともに疲れ果てている。
ちょっと、そこで一休みさせてもらおうと思い、暖簾をくぐる。

屋台には、3人の客がいた。
俺は彼らの顔も見ずに、屋台のオヤジにコップ酒と、おまかせでおでんの見繕いを頼む。

屋台に置いてあるラジオからは、竹内まりや の「静かな伝説レジェンド」が流れている。
胸にしみるいい歌だ。

しかし、それは勝者のために書かれた歌詞のようで、栄光とは縁のない俺にはミスマッチな歌である。
余計に惨めさが、増幅されるようだった。

「元気でやっているか?」
突然、隣の男性が声をかけてきた。

知り合いだったのかと驚いて、俺はその男性を見る。

「オヤジ!」
俺は長椅子から転げ落ちそうになった。
隣にいるのは、5年前に亡くなったオヤジだった。
それも年齢は今の俺と同じ、アラフォーの頃のオヤジだ。

「ハハ、驚いたか」オヤジは、懐かしい笑い声をたてる。「でも、このくらいで驚いていてはいかん。ほら、お前の右隣にいるのは、お前の爺ちゃんで、その隣にいるのは、お前の曾祖父ちゃんだぞ」

「えっ!」
言われた方を見ると、俺にどことなく似た容貌の、同年代の男性がふたり顔を並べていた。

「いつも、あの世から見ておるぞ」爺ちゃんが俺の肩を叩いた。「でも、あまり元気がないようじゃのう」

「こいつ、あまり景気のいい会社に勤めていないもんだから、しょぼくれているんですよ」
オヤジが俺の気持ちを代弁して答える。

「それをいうなら、ワシはもっときつかったぞ」曽祖父が声をあげた。「ワシは会津藩にいたからのう。会津戦争で敗北して、完全に負け組になった。そのおかげでずいぶんつらい目にあったものよ」


「それをいうなら、ワシらのころはみな負け組ですわい」爺ちゃんは胸を叩いて言う。「第二次世界大戦で、日本という国がまるごと負け組になったですからのう。それこそ皆、明日の食べるものにも困って、必死に生きてきたもんです」

「俺の勤めていた会社だって、負け組のほうだったぞ」オヤジは優しい目で俺を見つめていった。「勝ち組、負け組というが、そんなの一般庶民の俺らにはどうすることもできない宿命じゃないか。俺も爺ちゃんも曾祖父ちゃんも、そのまたご先祖様も、置かれた場所で必死に生きて、命をつないできた。それは、勝ち負けよりもずっと大変なことだ。その結果、お前がここにいる。それこそ先祖の繋いできた、誇るべきレジェンドだと思うがな」

オヤジが笑顔でコップ酒を掲げると、爺ちゃん、曾祖父ちゃんも揃って、俺にむけてコップ酒を掲げた。
屋台の電気に照らされるコップの輝きは、金メダルより輝いで見えた。
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いやいや勝ち組勝ち組

戊辰戦争で会津組でも生き残り、
太平洋戦争で大勢の人々が死んだ中でも生き残り、
戦後高度成長期の過労死をも掻い潜り、
そして平成大不況でもまだ会社は潰れていない!!
これを勝ち組と言わずして何と言うのか!!!!!!!!!!
という事で、わたくしも不景気な会社で頑張ります。

No title

なんか、涙出ちゃいました……。
苦労してるのは自分だけじゃないですよね。
その時代にはその時代の苦労があって、もっと壮絶な人生だった人もたくさんいたかも。
会えないはずの人と会える屋台、素敵ですね。

No title

感動しました。
以前、某大手家電メーカーに営業に行った時、そこの上司さんが言った言葉。
「うちみたいな勝ち組と付き合わないといけないよ~」
今その会社はリストラ、株価暴落、配当ゼロ、工場閉鎖で必死でございます。

No title

miss.keyさん
コメントありがとうございます。

勝者ばかりの歴史が肯定されがちですが、負け組のほうも上の都合で巻き込まれ、それでも必死に生きた涙ぐましい歴史があるのです。
そこにももっとスポットがあたっていいと思います。

No title

椿 さん
コメントありがとうございます。

自分はひどく苦労していると思いがちですが。先祖の人のほうがもっと苦労をしてきたのだと思い、励まされることがあります。
屋台で先祖の皆さんにあったら、ずいぶん救われると思います。

No title

makakaratenさん
コメントありがとうございます。

勝ち組しか肯定されないというのなら、第二次世界大戦でまけてそれでも必死で生きてきた、両親たちの歴史は否定されることになります。
勝ち組、負け組でその人の人生が評価されるべきではないことは、自分たちの親や、祖先を振り返れば、気がつくはずです。
みんなよく頑張ってきたと思います。

No title

人間は機械ではないですしね

0か1だとか、勝ちとか負けとか
そういったせせこましいものでくくってはいかんと思いますね

No title

凄いお話・・・
いつも心にいる、亡くなった親父と話せたようで嬉しかったです(/_;)
こういうシチューエイションの映画『異人達との夏』や『地下鉄に乗って』も大好きです。
染み入る、とても良いお話を読ませて頂きました・・・

No title

YASUさん
コメントありがとうございます。

僕もその映画好きです。
懐かしい人に会える、そんなストーリーはいいですよね。

No title

blackoutさん
コメントありがとうございます。

その通りですよね。
置かれた場所で、誰でも必死に生きているのですから。
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アルパカとバラとスプリング、つまり春(おまえはルー大柴か)を愛するナイスミドル?なサラリーマンです。でも同僚には、そんな趣味、ばらしません。キモイっていわれますから。残念!(古っ!)

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