牡丹

二人の幼子を残して妻が逝った。

妻の死は、唐突なものだった。

妻はミュージカル俳優をやっていた。
しかしなかなか芽が出ず、主役のオーディションは落選ばかり。
それでも心折れることなく、歌に踊りに演技にと、人一倍の努力を重ね、妻はようやく主役に抜擢された。

妻はその初舞台の後、楽屋で急逝したのだ。
死因は心臓発作だった。

あまりに突然のことであったので、妻の死から一年が経ったが、私はまだ受け入れられずにいる。
妻はその直前まで、舞台にあがる役者の誰よりも生命力に満ちたオーラを放ち、花のように舞う演技をしていたのだ。
そう、この牡丹の花のように。
なのに、なぜ…。

五歳になる長男の大樹が、牡丹荘というアパートの前に咲き並ぶピンクの牡丹を指さす。
「パパ、このお花きれいだね。なんて名前?」

「牡丹という名前だよ」

「ボタン?」大樹は自分のシャツのボタンを摘んで言う。「これと同じ名前なんだ。全然似てないのにね。おかしい」

「ボタン、ボタン」
兄が首をかしげる様子を見て、三才になる弟の樹生も自分のシャツのボタンを摘みあげてはしゃぐ。

「おいおい、そんなにつよく引っ張ったらボタンとれちゃうぞ」
私はそう言いながら、この子らにはとれたボタンをつけてくれる母親がいないのだと思い、切なくなってきた。

「でもこの花、ボタンには似ていないけど、ママに似ているね」と大樹は言った。

「ああ…」
私は大樹が自分と同じ思いで、この花を見ていたことに驚く。

そうなのだ。
妻はこの牡丹の花のように、最後に大輪の花を咲かし、それが唐突に落ちるように散ったのだ。

大輪を支える細い枝を助けるように、樹生は「ママだ、ママだ」とはしゃいで、花の下にそっと手を添える。

牡丹+のコピー_convert_20150502063145

その光景を見て、私はスッと妻の死が受け入れられた。
牡丹の花は散っても、根は生きてると思えたからだ。

私は妻が死んでから、この幼子たちをどうやって育てていけばよいかと憂いてばかりいた。
しかしそれに気づいた今、妻が繋いでくれたこの命を決して枯らさないで育てていこうと、私は久しぶりに前向きな気持ちになれたのだった。

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comment

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おはようございます

安くておいしいので幸楽苑のラーメンファンですが、
この時期、よくこんな連想ができたものだと感心しました。

そのあとでこの短編を読んだら、
よくこんな連想ができたものだと感心し、
「牡丹の花は散っても、根は生きてると思えたからだ」
で、ジーンと来ました。

こんにちは。

大輪の牡丹。
亡き奥様のメッセージが宿っていたのでしょうか。
感動的なお話ですね^^

No title

こんにちは。お邪魔します。
お花や植物に教えられることってありますね(#^^#)

No title

夢がかなった矢先、しかも幼い子を二人残して……。
奥さんも心残りでしょうが、残されたご主人はこれからも生きていかなくちゃいけなくて。
奥さんがいなくなったことが、いろいろな意味で重いだろうな、と思いました。
美しくて、胸にしみる短編でした。

こんにちわ^^

若くして夭逝した故 本田美奈子さんを思い出しました。
世界各地を武者修行して歩き、様々な芸能人と交際した彼女の行き着いた所は、人は皆同じと言う人間の原点でした。
ミュージカル「ミス・サイゴン」や、自らが作詞した「タイスの瞑想曲」には、人間愛に基づいた平和の思想が現れています。
そう言えば、最期の六本木ヒルズの舞台では、絵にある様な赤いドレスを着て「アメージング・グレイス」を歌ってました。
忘れられない牡丹の花の様な人です。

No title

☆バーソ☆さん
コメントありがとうございます。

牡丹の季節ですからね。
それをテーマに物語を書きたいと思いました。

No title

冷凍SANMAさん
コメントありがとうございます。

見方を変えることで、前向きになれることってありますよね。
そんな手助けになればと思い書きました。

No title

おきまちあきさん
コメントありがとうございます。

自然に教えられることってあります。
動物にも、素晴らしいことです。

No title

椿さん
コメントありがとうございます。

一人で子どもを育てなければいけない心細さ。
でも奥様の命をつなげるとなれば、立派に花咲かすよう育てるでしょうね。

No title

sado joさん
コメントありがとうございます。

本田美奈子さん、素晴らしい女性でした。
美しい牡丹のような人でしたね。

こんばんわ

うう(`;ω;´)

そうですね。死んでもひとの心に残る。自分がこの世界に残してきたものからまた次の世界に繋がる☆彡

ぼたんって可憐な花ですね(◍'౪`◍)♡

No title

PHiRo♪さん
コメントありがとうございます。

バラも好きですが、牡丹も好きです。
あの大きさ、可憐さ。花の王女だと思いません?

こんばんは。

花って人間の人生のなかで、ほんとにいろんな場面で救ってくれたり、癒してくれたり、楽しませてくれたり・・・。
なくてはならない存在ですね。
わたしも、二十歳すぎのころ母が亡くなった時、トルコキキョウがあちこちで咲いていたり、友人が母に、と持ってきてくれたりのが印象的です。

牡丹の季節・・・。奈良では「長谷寺」が牡丹でとても有名なんですよ。
このあかあさんも、ふたりの男の子を天国から見守っているでしょう。

何時かが判らない

 人は何時か死ぬとは判っていても、それが何時かは判らない。困ったもんだ。もっとも、判っていたら残り日数数えてしまって何も楽しめないよなぁ。となると、希望に満ちたまま突然死んだ奥さんは幸せだったのかも知らん。心残りはあったろうが、それを言ったら誰もありありだからね。

こんばんは

これ小説なんですね。
サラッと読んで本気で感動しました。

No title

牡丹の母から子へのメッセージが込められていたのでしょうか?
切ない物語ですね。

No title

てのりぱんださん
コメントありがとうございます。

花は神様が与えてくれた心癒やす芸術だと思います。
今の季節に咲く花、牡丹、藤、ツツジ、バラ、みな好きです。
長谷寺のお写真見てみたいです。

No title

ミー さん
コメントありがとうございます。

牡丹の儚い散り際を見て、それをテーマにお話を作ってみたいと想い書きました。
自分でも泣けてきました。

No title

miss.keyさん
コメントありがとうございます。

幸せのうちにパッと死ぬのも、見方をかえれば、幸福なのかもしれませんね。
でも子供のことを心配して死ぬのは、辛かったでしょう。

No title

YASUさん
コメントありがとうございます。

メッセージを受け取るには、感受性が豊かであることが大切だと思いました。
そういう子育ては重要ですね。
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マウントエレファント

Author:マウントエレファント
アルパカとバラとスプリング、つまり春(おまえはルー大柴か)を愛するナイスミドル?なサラリーマンです。でも同僚には、そんな趣味、ばらしません。キモイっていわれますから。残念!(古っ!)

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